突然婚⁉︎ 〜きみの夫になってあげます〜
Book 1
「三十二年の孤独」
「……というわけで……この区立図書館は……月いっぱいで、閉館になります」
……とうとう、来たか。
こんなオフィス街のど真ん中にあるビルの一室にある区立図書館の「分館」なんて、以前から納税者である区民のみなさんからは「税金の無駄遣いだ」と言われていたから、いずれはそうなるかと思ってはいたが。
これからは最寄り駅からバスに乗らなければならない「本館」勤務になるのか。
……バスの時間もあるけど、二十分は早く家を出なくっちゃ。
「えぇーっ、本館は駅からバスじゃないですかぁ……二十分は早く家を出ないといけなくなるじゃん」
隣で一緒に話を聞いていた、唯一の同僚である真生ちゃんが口を尖らせた。
二十五歳のまだまだ若い真生ちゃんは思ったことがそのまま口に出てる。
「だけどね、西村さん。
一日の利用者様の数を考えてみてください。
ビルの家賃に見合うだけの『集客率』とは到底思えません……区民の皆様からは『税金の無駄遣いだ』って言われてるんですよ」
苦渋に満ちた顔で、一般社団法人「全国図書館専門管理センター」のエリア担当者の原さんが言った。
彼にとってもさぞかし「お荷物」だったんだろう。
確かに、これだけインターネットが普及した昨今、こんなオフィス街のど真ん中の図書館に調べ物をしに来る人なんていない。「利用者」の多くは出先で時間を潰す営業マンだ。
空調の効いた図書館(それでも「区民の皆様」のために節電してかなり控えめにしているが)は、夏は涼しく冬は暖かいため、彼らからは重宝されているようだが、彼らが(たとえビジネス書であろうと)本を読むことはない。ましてや、貸し出しなんてありえない。
本館であれば、就学前の子どもを対象に土日を開放して「読み聞かせ会」などのイベントを開催したり、定年退職後でヒマを持て余す高齢者のために民間のレンタルショップから「民業圧迫っ!営業妨害だっ!」と苦情が来るほどCDやDVDを充実させたりして、いろいろ「集客率」を上げる手立てもありそうなんだけどね。