突然婚⁉︎ 〜きみの夫になってあげます〜

「あ、僕は、怪しい者ではないので……」

そう言ってイケメンさんは、わたしが先刻(さっき)ボックストレーから出してカウンターに置いた「図書館利用カード申込書【個人用】」をひょい、と取った。

そして、カウンターの上のペンスタンドからボールペンを抜いて、必要事項を埋め始めた。

それから、スーツの上着に隠れていたストラップをずるりと引き出した。カードホルダーだった。

「確か、この区に在住か勤務してないと、そのカードは作れないんだったよね?」

そう言って、イケメンさんはストラップの先についたものを見せた。

社員証だった。

わたしはまだフリーズしたままだったので、真生ちゃんが顔を寄せて食い入るように見る。

【(株)萬年堂
社員番号 : ◯◯◯◯◯◯
所属: 本社 第一営業部 営業一課
氏名: 葛城(かつらぎ) 慎一(しんいち)

彼はこの分館のすぐ(そば)に本社ビルがある、東証一部上場企業の社員だった。

(株)萬年堂(まんねんどう)は、明治時代に万年筆の会社として創業され、今や文具全般の製造・販売を行う、文具メーカーとしては国内でトップクラスの老舗の企業だ。

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