きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
そのあと、わたしは葛城さんの図書館利用カードを発行し、彼は本を四冊借りた(ちなみに一度に借りられる本は五冊までだ)
澁澤 榮一の「雨夜譚」と、過去三年分の「ブルーバックス科学手帳」だった。
「澁澤」については、
「功罪はあるけれども、今の『東京』をつくった人には違いないからね。彼の自伝は前からじっくりと読みたかったんだ。それに、今度『一万円札』になる人だからね」
と、葛城さんは言った。
「科学手帳」については、
「最新の今年版じゃなくていいんですか?」
わたしが訊くと(本館からの取り寄せになるためだ)、
「それは持ってるからね」
そう葛城さんは答え、
「最近の傾向を知るためにも、数年前のものから読みたかったんだ」
と、満足そうに笑った。
……そして。
「じゃあ、櫻子さん、携番とメアドとLINEのID教えてくれる?僕たち『作戦会議』しなきゃいけないからさ」
わたしは今日初めてしゃべった人に、すんなりと全部教えてしまった。
こんなことこそ……初めて、だった。