きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
Book 6
「葛城は住むことにした」
「あ、あの……確か『作戦会議』でしたよね?」
わたしは呆然としていた。
「うん、そうだよ。でも、それはあとでメシ食いながらやろう。
……あ、お腹空いてる?仕事終わりだもんね。
悪いね、もうちょっとガマンしてくれるかな?
先に来ないと、ここ閉まっちゃうからさ。
で……櫻子さんはどれがいいと思う?」
葛城さんは長身の身体を屈めて、ショーケースに目を落とした。
今わたしたちが並んで覗き込んでいるショーケースには、店内の照明に照らされて、数々の指輪がキラキラと輝いている。
「もしかして、この店じゃない方がよかった?
急遽、結婚してる弟に聞いたら、ここだと間違いないって言うから来たんだけどさ」
へぇ、葛城さんには弟さんがいるんだ。
で、もう結婚してるんだ。
「図書館利用カード申込書【個人用】」によると、葛城さんはわたしよりも五歳上の三十七歳だった。弟さんも三十を過ぎてるのだろう。
葛城さんはとてもとてもそんな歳には見えない。
どう見たって三十歳になったくらいにしか見えない。
てっきり、わたしと同じくらいの歳だとばかり思っていた。
「……結構、オジサンだけど、櫻子さんの『結婚相手』で大丈夫?」
申込書を提出するとき、葛城さんはそう言って肩を竦めていた。
「とんでもないっ……わたしだって、もう三十二なんですから」
わたしがあわてて答えると、
「ほんとに?二十代後半だとばかり思っていた。
だけど、五歳しか離れてなくてよかった。
結婚相手としてはよくある年齢差だよね?」
葛城さんは屈託なく笑った。
わたしもにっこり微笑んだ。
……いやいやいや、そうじゃなくってっ!
わたしはあわてて、トバしていた意識を引き戻す。