きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
わたしはうちの門扉を開け、小さな前栽を抜けて、まるで葛城さんを押し込むようにして家の中に入った。
「やだねぇ、櫻子ちゃん、そんなにあわてちゃってさ。そんなに早く『ダンナ』と二人っきりになりたいのかい?」
山田のおばちゃんの、囃し立てた笑い声が背中に聞こえる。
「この分だと、ずいぶん早く赤ちゃんの顔が見られんだろねぇ」
嫁に行った娘がそれでも「仕事優先」で、なかなか「おめでた」にならないため、やきもきしてる中村のおばちゃんが、うらやましそうに言う。