きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
シンちゃんはスーツの上着から、ぞろりとストラップを引き出した。
「僕はそこの萬年堂の本社に勤めている、葛城 慎一という者です」
まるで黄門様の印籠のように、先についたカードホルダーを突きつける。
「この職場は、櫻子にとってずいぶんな仕打ちをしてくれているそうですね?
でも、僕と結婚もしたし、それにもうすぐこの分館が閉館になるということだし、これらを機に櫻子を退職させますので」
シンちゃんはきっぱりと言い切った。
「そっ、そんな勝手に……!?」
原さんが悲痛な声をあげる。唇がぶるぶる震えている。
「……『勝手に』だと?」
シンちゃんの口調が、がらりと変わった。