きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
Book 10
「わたしを狙わないで」
わたしと真生ちゃんは、分館が閉館となる最後の日の金曜日、帰りに渋谷まで出て居酒屋で「お疲れさま会」をした。
「「かんぱーいっ!」」
わたしたちはレモンサワーのジョッキをかちり、と合わせた。わたしも真生ちゃんも苦いビールは苦手だ。
「うっ……来週から、櫻子さんと離れて本館で働くのさみしいですぅー」
真生ちゃんはぐすっ、と涙ぐんだ。
「わたしだって、さみしいよー。
それに、シンちゃんからは当分は家でじっとしてなきゃダメだって言われてんのよ?」
日中はハローワークへ行って「求職活動」をしましょうと思っていたのだが、シンちゃんが『まだ危ないからダメだよ』と言って、うるさいのだ。
あれからは、ご近所で「不審者情報」も聞かないというのに。シンちゃんはあまりにも心配性である。
「あらっ『シンちゃん』って束縛系かぁ。
櫻子さん、愛されてますねぇー!」
真生ちゃんは今度はぐふふ…と笑い始めた。
「……まるでホンモノの新婚さんカップルみたいじゃないですかぁ」
わたしと同じで、お酒はそんなに強くない。
もう酔っぱらいかけてるのだろう。
「ちょ…ちょっと、真生ちゃん、なに言ってんのよっ!」
わたしは呑んでいたレモンサワーを噴き出しそうになった。