マイラヴレディ~俺の愛しいお姫様

思わぬ人に目撃されてしまった。

…そりゃ、こうして並んで手を繋いで歩いてんだもん。

恋人以外何者でもない。



(あ…)



その時、香ばしい焼きたてパンの薫りが鼻を掠める。

思わず立ち止まってしまう。

そこは、お馴染みの地元のパン屋さんだった。



この薫り。いつ嗅いでもたまらない…。

この絶妙なバターの薫り、癒される…。



…瞳真が、ここのクロワッサンが大好きで。

昔はしょっちゅう一緒に食べていた。

トレセン行く前に、必ず買いに行ってて。

何か腹空けば、必ずここのクロワッサンだった。



そういや、ここのパン、最近食べてない…。

部活で朝早いし、帰り遅いから、開店時間に全然行けないんだよなぁ。



蓑島くんが朝イチで家に来てしまったから、ろくすっぽまともに朝ごはんも食べてない。

空腹もあるからか、ついつい引き寄せられるように立ち止まったままだった。



「どしたの?パン屋さん?」



蓑島くんがそう言いながら、目の前のパン屋さんを見上げる。



「…あ、ここのパン美味しいってゆらが言ってた。食べログでもパン屋部門1位なんだってね」

「そ、そう!そうなの!パンダフルのパン、美味しいの!食パンとクロワッサンが看板メニューなんだけど、特にあんこクロワッサンがおすすめ!」

「あんこ?クロワッサンにあんこ?」

「うん。すっごい合うの」

「そう言われると、興味出ちゃうな?…入る?」



入る!



…と、言おうとしたが、それは喉の奥で止まる。


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