王子様とブーランジェール
open 王子様と焼きたてパンの香り
ーーーこれは、昔むかし…じゃなくて、現代の日本に生きる、男子高生、DKのお話。
「じゃ、行ってきまーす」
「…ちょっと夏輝くん!私のクロワッサン、勝手に食べましたね?!」
「食べた食べた。勝手に食べた…いってきます!」
「ちょっと!」
ーーー『王子様』と呼ばれる、イケメンDKのお話で、ございます。
朝の7時。
部活の朝練に向けて、重いカバンを肩にかけて家を出る。
…ヤバい。姉のクロワッサン、勝手に食ったのバレたぞ。
今日は朝練で、姉が起きる前に家を出るから、バレないと思って堂々と食ったのに。
ヤバいヤバい。あいつ、うるっせえからな。
逃げるように家を出る。
ーーー『王子様』は、身長も高くモデルのように、容姿端麗で、成績優秀でしっかり者。
運動神経も抜群で、サッカー部でも一年生ながらに大活躍。
冒頭では、お姉様のクロワッサンを勝手にお食べになったりと…少々、小生意気でやんちゃではございますが。
王子様の周りには、身なりは大層お綺麗ですが、羨望や下心だらけのお姫さまたちが寄って集って仕方がないそうです。
長い坂を下って5分。
商店街の通りを出る少し手前。
(…あ…)
ちょっと良い匂いが、してきた。
風にフワッと乗って、やってくる。
ーーーそんな、王子様のハートを、射止めているのは…綺麗なお姫さまではなく。
それは、香ばしくて。
パンの焼き上がる香り。
温かくて、ふわりとした、バター強めの香り。
進める足を緩めて、次第に立ち止まってしまう。
心地好い香りにつられてしまったのは、言うまでもない。
そこは、商店街のパン屋さん。
いつもお世話になってる馴染みの場所。
ショーウィンドウから、中をちらっと覗いてみる。
よく覗いてみると、奥にあるパン屋の厨房が見える。
しばらくじっと見つめてみる。
…あ、いた。
中には、彼女の姿が。
今日もパン焼いてる。
ーーーなんと、商店街のパン屋の娘である、幼なじみのブーランジェール。
身なりは決っして綺麗ではない、ごく一般人の少女です。
その姿を見届けて、今一度その漂う心地好い香りを吸い込む。
あー…。
今日も良い匂いしてんな…。
何か充電されたような気がする。
ちっ…姉のパンを勝手に食べ、たらふく食べてきたはずなのに。
まだ食べたくなった。
ーーー王子様は、彼女の作ったパンと、彼女自身を愛して愛して止みません。
軽く天に腕を伸ばして、背中を伸ばす。
そしてまた、足早に学校へ向かう。
今日も1日…頑張れそうだ。
食い足りないけど。
…遅刻すんなよ。
ーーーちょっとシャイで不器用な王子様。
何年経っても、愛を伝えることが出来ず、ずっと片想い。
まるで、某野球漫画の主人公の姉のように、木の陰からブーランジェールをずっと見守り続けている始末。
完璧なイケメンであるはずなのに、恋愛に関しては、とてもイタくてイタくてなりません。
高校を舞台に、笑っちゃう、ビミョーな騒動が数々起こりますが。
果たして、王子様の想いは、ブーランジェールに伝わるのでしょうか…?
そんなお話。
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