王子様とブーランジェール
「いよーっ!夏輝、おつかれー!」
教室の出入口の方から、騒がしく呼ばれる。
そこには男子生徒が4、5人。
同じ部活の連中だ。
中には先程まで一緒に昼を食べていて、そのうちどこかに行ってしまった咲哉の姿もあった。
おまえ、そっちに行ってたのか。
「夏輝おつかれー!あんパン食ってんの?」
「おつかれ。ずいぶん元気だな」
同じサッカー部の翔だ。
俺に話し掛けてくるなり、肩をバシバシと叩いてくる。
な、何だよ。
すると、咲哉の隣にいた幸成がニヤニヤしながら、俺の隣に勢いよく座る。
「いやーっ。楽しい話聞いちゃったもん。元気になるっしょ!」
咲哉と翔と揃って顔を近付けてくる。
楽しい話?…まさか!
「大河原さんから聞いたぞー?三年女子との話!」
な、何だって!
大河原さん(サッカー部の先輩)…当事者から!
ちっ…何てことだ。
大河原さん、喋ったな。
あぁ、めんどくせえ…。
「女に興味ありません!みたいな顔して、あなたなかなかやるのね」
幸成、急におネエ言葉になって一人で勝手に笑った。
「で、何なに?女子との飲み会って、合コンしちゃったワケ?」
「んで、飲み過ぎて酔っぱらってホテルに行っちゃったワケ?」
「んで、年上の女性と、ホテルで一晩過ごしちゃったワケ?」
「ちょっとちょっと夏輝ー!」
あぁーっ!うるせえ!
事細かに全部聞いてんじゃねえかよ!
全部その通りだよ!
めんどくせえ!
「え?マジ?純情ラブストーリー、もう終わり?」
初めてこの話を聞いた理人は、俺の顔をチラチラと見ながら吹き出しそうになっている。
このヤロー…。
やっちまった…。
先週の金曜日。
部活帰りに、三年の先輩、大河原さんに呼び止められる。
『竜堂、明日の夜空いてない?』
『え?』
三年の大河原さん。
なかなか面白いことを言っては笑わせてくれる、一年の俺達にも気軽に話し掛けてくれるフレンドリーな先輩だ。
しょっちゅう『合コン行くべ!』と誘われるが。
『大河原さん、俺、合コンは行きませんよ』
バッサリと切り捨てる。
合コンはちょっとお断りしたい。
女と飲み会なんて、言い寄られたりして面倒くさい。
別に彼女ほしいワケじゃないし。
他に好きな人…いるし。
『ま、待った待った竜堂くん!ご、合コンじゃないのよこれは』
『えー?』
大河原さんに不振の目を向ける。
合コン好きの大河原さんのお誘い。
合コンじゃなかったらいったい何なんだ。
『吉原とさ、野菜巻きの店に行くんだよ。前テレビでやっていて、竜堂も野菜巻き食べてみたいって言ってただろ?で、人気店の予約が取れたらしいのだ!だから竜堂も誘って行こうぜー!なんてさ』
大河原さんの後ろには、同じく三年の先輩、吉原さんもいて、俺にピースしている。
確かに。前にそんな話はしたな。
『吉原さんと野菜巻きっすか…』
『なあなあ行こうぜー?男三人、むさ苦しいけどな?』
『………』
むさ苦しいのはいただけないが。
合コンよりはマシかな。
『わかりました。土曜日は予定ないんで大丈夫です』
『そ、そうか!じゃあ、明日夜すすきので!また連絡するわ!』
っていう話だった。