王子様とブーランジェール




「…お、そうだ。桃李、眼鏡気をつけろよ?落とすなよ?」



暴走して、のたうち回ることを前提に、釘を刺しておく。

しかしヤツは…。



「な、な、な、なつき…め、め、め、眼鏡をおと、落とさなかったら…お、お、お化け消えますか…」

もうダメだ。

恐怖の狭間にすでに陥れられている。

…人の話、聞かんかいぃっ!

「…桃李コラァっ!人の話を聞けえぇーっ!」

「…は、はいぃっ!」

「…あぁ、そうだよ眼鏡!眼鏡さえ落とさなければお化けなんか出ないからな?!いつまでも慌てふためいてんじゃねえ!このバカがぁっ!」

「ご、ご、ご、ごめんなさいぃっ!!」



…あ、しまった…!

周りがシーンとなっていることで、自分が何をしたかを気付く。

こんなところでまたしても、やってもうた…。

雷落とし…竜堂サンダー…。




『あまり怒鳴らないでやって?竜堂サンダー、弱いものイジメに見えるから?』



そうだ…。桃李だって、怖くて怖くて不安なのに。

『このバカがぁっ!』は、ないよな…。



ずーんと一気に落ち込む。

もうやらないようにと思ってたのに…!



「柳川…もう、行こうか…」

何だかとてもバツが悪くて、その場に居づらく。

ペアになった柳川に声をかけて、一足お先にその場を旅立つ。

残った黒沢さんや理人に「いってらっしゃーい」と手を振られていた。

松嶋が「おまいら、エッチなことしてたら、ライトアップしてやるぜ!」と、叫んでいた。

…するか、ボケ!

ライトアップ?この小さい懐中電灯でか?






そんなワケで、始まったナイトハイク…もとい、気持ち悪いコースの肝試し的なもの。

正直な感想。

ホンっトに、気持ち悪い。

なんかこう、ジメッとしてる。

地面も、空気も、回りを取り囲む木々も。

木々が立ち並び、その間は笹藪で埋め尽くされている。

コースには柵がはっていて、その向こうは絶壁だ。

下からは川の流れる音がしている。

何だか湿度が高い。軽く霧もはっている。

これはホントに気持ち悪いコースだ。



その時、傍にある大木から、ガサガサッと音がした。

「きゃっ!」

隣にいる柳川は軽く悲鳴をあげてこっちに寄ってくる。

何の音?

二人で一本持たされた小さい懐中電灯を、音の方向に当ててみる。

「…エゾリスだ」

「り、りす?」

大木の枝には、エゾリスが三匹。

絡まるように、獰猛に走っていた。

エゾリス、こんなに間近に見られるの凄いぞ。

ナイトハイクコースもあながち嘘ではない。

自然散策にはいい場所なのかもしれない。



< 101 / 948 >

この作品をシェア

pagetop