王子様とブーランジェール
だから、俺が守ってやるんだよ
「…何で、こんなことになってるんだ!」
ナイトハイクという、気持ち悪いコースの肝試し的なものを開催中。
桃李の尋常じゃない悲鳴と、大きな音がした。
駆けつけてみると、そこには松嶋しかおらず。
桃李は…絶壁の下へと落ちていった。
と、いうことだ。
何でだ?!
「嘘っ…」
事の重大さを知ったのか、柳川も口元を押さえて、青ざめていた。
しかし、この男は。
「すっげぇ、芸術的に落ちていったで?ゴロゴロゴローッ!と。ローリングサンダー!みたいな?」
この野郎っ…!
事の重大さが、わかってないのか?
こんな時にもふざけやがって!
「だから!何があったんだよ!何でこんなことになってんだよ!」
「いやぁー…あまりにも、怖がって怖がってのたうち回るもんだから、一発強く抱き締めた…」
「あぁ?!」
「…じゃなくて!じゃなくて。あまりにもガクブルなもんだから、ちょっと和ませてやろうと、冗談を言ったのよ」
「冗談?」
「そそ。『あぁーっ!竜堂のダンナ、柳川とチューしておっぱい揉んでるわ!』ってさ」
「はあぁぁっ?!」
「ちょっと!松っつん!」
「で、ホントに揉んでないか確認しようと、ちょっと先に行ってしまって、目を離しちゃったワケ。悲鳴がして、振り向いたら丁度足を滑らせていて、ダイビング!していたっつーワケ」
足を滑らせて、落ちたのか。
確かに。地面は少しぬかるんでいる。
桃李がソワソワとのたうち回っていたのだとしたら、滑らせて落ちることもあり得る。
しかし。松嶋よ。
何、ガセネタを吹き込んでいるんだ。
ガセネタでも、桃李の耳には入れたくない話なんだけど。
こんな気持ち悪い場所で、おっぱい揉んでるわ?冗談じゃねえぞ!
俺、そんなに節操の無い野郎じゃない!
今一度、桃李の落ちたと思われる絶壁を見下ろす。
ホントの断崖絶壁ではない。
笹藪と大木と、地面は土だ。あと、流木や、落ちた枝。
落ちた、というよりかは、キツイ傾斜の坂をゴロゴロ転がっていった、というイメージだと思われる。
しかし、ゴロゴロ転がって落ちていったとはいえ、打ち所が悪ければ、最悪の事態だ。
(桃李…)
何で、こんなことになってんだよ。
絶壁から落ちるって、想像したか?
俺が近くにいながら…!