王子様とブーランジェール
守りたいものがあるなら、強くなればいいし。
傷つけたくないなら、負けなければいいだけの話なんじゃないのか。
…あー。
どうして、今ここでそれを思い出すかな。
昔、とある人に言われた言葉だ。
今はそれどころではないんだけど。
急斜面の地面、土の上で足を滑らせながら、降りていく。
冬に理人と滑りに行った、モーグルのコースより傾斜がある。
俺でもバランス崩すと滑り落ちそうになり、途中、笹藪や、木の枝に掴まりながら降りている状況。
運動神経のない桃李は、転げ落ちるしかないな。
途中、止まっては懐中電灯で辺りを照らし、周りを確認する。
桃李の姿はないか、手がかりになるものはないか、探す。
結構な距離降りてきたんだけど、姿どころか、形すらない。
落ちたと思われる形跡を辿って降りてきたつもりだけど、ここまで降りてきたら、もう何だかわからなくなってきた。
これは恐らく。
麓まで落ちきったか。
しかし、麓には川がある。
まさか、川の中に落ちちゃいないだろうな。
もし、そうなれば、見つけるのは難しいどころか、命の危険だって…。
「…桃李!」
名前を呼び掛けて、辺りを照らしながら確認する。
「桃李!…桃李、いないのか!」
何度も叫んでみるが…気配は感じられない。
もうちょっと、降ってみるか。
あれから、どのくらいの時間が経っただろうか。
ったく、どこにいるんだアイツは。
(…くっそ…)
最悪の事態が頭を過らないワケじゃない。
時間が経つに連れて、そりゃ不安も増してくる。
ちょっと焦ったりなんかもして。
だけど、生憎。
俺は諦めが悪い。
(…ホンっトに…)
何でこんなことになってるんだか。
足を滑らせて絶壁から滑落なんて。
命がいくつあっても足りないだろうが。
このままじゃ、ホントにいつか死ぬぞ。
だから、俺が守ってやるんだよ。
もしあの時、俺が傍にいれば、絶対こんなことにはなってない。
それは、自信持って言える。
根拠はないけど。
その姿を見つけるまでは、絶対に、諦めない。