王子様とブーランジェール




立ち止まって、今一度周囲を照らして確認した。

下を照らすと…砂利?

いや、砂利というか、石ころがあちこちに転がっている。

もう少し前方を照らすと、木々の隙間から川が見えた。

じゃあ、そこは川辺か?

もう、麓まで降りてきてしまったのか。



ちっ…見つからねえ。

違う方向から探した方がいいか?

一回、下に降りた方が良さそうだな。





…ここ最近のことを、振り返る。



最近の俺は、松嶋と桃李に振り回されてばかりだった。

二人が仲良すぎて、イライラして。

仲良く喋ってるだの、じゃれあってるだの。

間接キスしたとか、頭を撫でたとか。

ずっと一緒にいるだとか、負けたとか。

心折れるだとか、なんとか。



…正直、嫉妬だよ。あれは。



みっともねえな。情けない。

すごい小っさなことだよ。今のこのデッドオアアライブな状況に比べたら。

何でこんなことでぐちゃぐちゃ言ってたのか、今となってはわかんねえ。

少しばかりの嫌悪感が胸の中に残っている。

恥ずかしいのなんの。



でも、今だからこそ思うことは。

こんな感情も全部、桃李がいなきゃ話にならない。

アイツがいなければ、すべて小っさなこと。




だから、絶対見つけてやる。

絶対、無事でいるはずだ。



万が一のことを考えるヒマがあるのなら、そのぶん目を凝らして周りを探せ。

もしもの結果を考えて不安になるくらいなら、どうしたら解決できるのか、考えろ。

考えて、必ず動け。

自分に負けるようじゃ終わってる。



傾斜を足で滑り降り、平地に降り立つ。

笹藪や大木の大群を後にすると、そこはゴツゴツとした大きな岩から、小さな軽石が並ぶ川辺だ。

光を遮るものが無くなったせいか、月明かりで多少明るい。



「…桃李!」



周りを照らしながら、少しずつ歩いて身を進める。

足下から、シャリっと石の擦れる音がした。




「桃李!…どこにいるんだ!」



辺り一面を小さい懐中電灯でじっくりと照らす。

さっきよりは視界が開けて探しやすいはずなんだけど。



足をもう一歩進めた、その時。

思わず反応して、とっさに動きを止めてしまった。



今、聞こえた。



『…つき…』



わずかだけど、か細く。



『……夏輝ぃーっ!』




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