王子様とブーランジェール
爆発的に泣きながら、手を伸ばしてきた。
俺の方…ではなく。
「わああぁぁぁ恐かったあぁぁぁぁ…」
桃李はなぜか、俺の隣にあるデカい石にしがみついて泣いていた。
え?え?
俺の胸に飛び込んでくると思って…身構えてたのに!
空振りで、ガクッときたわ!
しかし、桃李は大泣き中。
「急に松嶋が驚かせてきたのおぉぉーっ!落ちてごめんなさい夏輝いぃぃーっ!うわあぁぁっ!」
え?その石、俺だと思ってる?
何のコント?
しかし、身の毛もよだつ恐ろしいことが起きていた。
「あの、桃李…」
と、声をかけた時。
恐るべき変化に気付いた。
…なっ!
何だと!
桃李の顔に。
眼鏡、ない…!
…ないぞ!!
だからか。
そのデカい石と俺、間違えてる。
眼鏡っ子あるあるか!
…じゃない!
眼鏡、眼鏡どこにやった!
しかも、本人、気付いてない!
あわくって再び周辺捜索。
今度は桃李の眼鏡。
ある意味必死で慌てて探し始めた。
懸命に小さな懐中電灯で辺りを照らしまくる。
眼鏡…眼鏡見つけねば!
桃李はあの石を俺と勘違いしたままだ!
桃李はまだ、石にしがみついて大泣きしている。
ちきしょう!まだ気付かないなんてどういうことだ!
ホントは俺が抱擁するはずだったのに…石ころにまんまと桃李を取られた気分だ!
石ころひとつにこんなに腹立つってあるか?!
眼鏡はそこら辺に落ちていた。
桃李の頭があったと思われる場所らへんに。
しかし、眼鏡…フレーム思いっきり曲がっている。
落ちた勢いの凄まじさを物語っている…いや、この程度で済んでよかったな。
パッと見て、レンズは無事だ。
明かりを照らして、フレームを気持ち直してみる。
ちょっといびつだけど、何とか使えそうだ。
桃李はまだ石にしがみついて泣いている。
何も喋らない石ころに、何の違和感も持たないのか?
そんな桃李の傍へ行き、石を挟んで向かい合うようにしゃがみこむ。
(………)
直した眼鏡を手にしたまま、桃李の石にしがみついて泣くその光景をしばらく見守る。
眼鏡はずした顔、久々に見た。
やっぱり。こいつ。
眼鏡はずしたら、モンスターになる。
「…おい」
そっと眼鏡をかけてやる。
「…あ、夏輝」
視界がクリアになったからか。
自分のしがみついていた石と、俺を交互に見ている。
「…おまえ、バカ?」