王子様とブーランジェール



「夏輝…ここどこ」

「さあ…」



ようやく立ち上がった桃李は、辺りを見回している。

辺り一面が暗闇でちょっとビビっているのか、気持ち俺の傍にいる。

くっつくかくっつかないかの微妙な距離だ。

気になる…。



しかし、帰るには手がかりがないワケじゃない。

ここに降り立った時、ちょっと違和感を感じていた。

この川辺。綺麗なんだ。

いや、風景が綺麗とかじゃなくて、ゴミとか落ちてないし、辺りが妙に綺麗に片付いていて、整備されている。

人の手が入っているということは、普段、ここに人が出入りしている。

辺りがほぼ暗闇で、今はよくわからないが。

昼間、何かに使われているんじゃないか?この場所。

と、いうことは、どこかに繋がっている道があるはず。

簡単に帰れる道があるはずなんだよ。

しかし、辺りは暗闇の中。

手探りで進んでいっても、体力と時間を消耗するだけだ。

俺一人ならともかく、桃李も一緒だし。

おそらく、時間をかければかけるほど、大騒ぎになる。



ポケットから、ケータイを取り出す。

持ってきておいて良かった…。



「…もしもし、理人?」



誰にかけようか考えたが、やはり一番頼れるのはこいつしかいなかった。

意地悪だけど。



『夏輝?おまえ、何やってんの?桃李は?』


電話の向こうの理人は、至って冷静だ。

「…あ、いるよ。無事」

『そっか。まあ、夏輝なら心配ないと思ってたけど?…で?何?』

心配ないってか。信用されてるのか、構われてないのか、どっちなんだろう。

そして、電話の目的は、ちょっと調べてほしいことがあったからだ。

「…あのさぁ、聞きたいことあるんだけど」

『何?桃李への口説き方とか?二人きりだしな?』

「あのなぁ…」

周り、誰もいないよな?その電話、隣で誰か聞いてないよな?!

先生とか、陣太、傍にいないよね?!

『嘘、冗談。で?何知りたいの?』

「今、川辺にいるんだけど。さっきいたナイトハイクコースの崖の真下の。結構広くて深そうな川なんだけど、普段何かに使われてないか…地図とか持ってない?」

『地図はないけど、まず先生に聞いてみる』

電話の向こうで、理人が先生を呼んでいる。

まずは大丈夫そうだ。


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