王子様とブーランジェール
「…あ、もしもし…あぁ、そうか…わかった……わかったって!じゃあ」
知りたいことは、理人が情報収集してくれてわかったのだが。
最後、とてもめんどくさいことを言われたので、無理矢理電話を切ってしまった。
ったく、あいつは。
まさか、この状況見えてんじゃねえだろな。
「…理人、何て言ってたの?」
「わっ!…び、びっくりした」
かなりの至近距離から話しかけられたので、かなりびっくりした。
ち、近い…!
咳払いをして、気を取り直す。
「桃李、少し歩くぞ」
「あ、はい」
…理人が先生に聞いてくれた話だと。
この大きめの川と、綺麗に整備された川辺は。
昼間は、ラフティングのコースになっている。
大きい石がゴロゴロと散らばりやすいポイントなので、定期的に管理に入っているようだ。
下流に向かって川辺に沿ってしばらく歩いていけば、川にかかった大きい橋とぶつかる。
そこを上がれば、昼間遊んでいたアクティビティの敷地内に入り、遠くに泊まっているホテルが見えるはず。
それを目指して歩く。
管理の人も、そのルートでここまで来ているとのこと。
雨が降って川の水が増水しない限り、その橋まで、川辺は歩いて渡っていけるらしい。
と、いうことだ。
何とか帰れそうだ。良かった。
「だいぶ歩くの?」
歩きながら、桃李が後ろから話しかけてくる。
「ほんの数分じゃないか?」
そう言って振り返るが。
桃李とはいつの間にかだいぶ距離が離れていた。
え?こんなに離れる?っていうぐらい。
「ご、ごめんなさい…待って…」
俺、歩くの早い?
確かに、足場は石ころで敷き詰められていて、歩きづらいといえばそうだ。
「足ケガしてるとか?」
「いや、大丈夫…」
と、言いながら、「ぎゃっ!」と悲鳴をあげ、足を取られて転んでいた。
「おい!」
「ご、ごめんなさい!大丈夫だから…」
そう言いながら、慌てて立ち上がる。
まったく…。
『夏輝は歩くの早いし、桃李は暗闇で恐がってると思うから、ちゃんと手を引いて歩いてやれよ?…え?手を繋ぐのに照れてる場合じゃないから』
理人に言われると、ムカつく…!
なぜおまえに助言されねばならぬ…!
んなの、わかっとるわ!
照れとらんわ!…っていうのは嘘だけど。
言っとくけど!
理人に言われたからやるんじゃないぞ!
おぼつかない足取りの桃李の右手をぐっと引っ張る。
「わっ!」と、びっくりされた。
「行くぞ」