王子様とブーランジェール
こういう時に、何て言ったらいいのかわからず。
勢いで乱暴に引っ張ってしまった。
無言でいるけど、怖がられなかっただろうか。
もっと優しくしてやれば良かったかも…。
勢いで繋いだ手だけど、重なった手の平は、柔らかくて温かい。
柔らかくて…気持ち良い。
…あぁ、俺、気持ち良いとか言って変態みたいなんだけど。
あぁ、嫌だ。
頭の中で、ごちゃごちゃと考える。
今、きっと顔ヤバい。
恐らく真っ赤になってるわ。
こんな顔、誰にも見せられない…。
今、振り返ってはならない…。
お互いしばらく沈黙が続いていたが。
ふと、桃李がどうでも良い話をし始めていた。
「私が死んだら、誰にも悲しんでもらえないところだった…」
「…は?」
「…あ、違う。葬式では理人しか泣いてくれないところだった…」
おまえがちょっと変わってるヤツだとは、わかっていたが。
一体急に何を言い出すんだ。
なぜ、理人?
ここでその名前が出てくるとは、ちょっとイラッとするわ。
「お母さんがね、『おまえはドジばかりだから、いつか事故であっけなく死んでしまうかもしれないね。だから母さんはいつでも覚悟しているから。おまえが死んでも、もう仕方ないって思うしかない』って、この間言ってたの…」
「……」
何も、コメント出来ない…。
何てことを言う母親だ。
だが、桃李の母親なら言い出しそうだ。
桃李以上に変わり者で、多少クレイジーな人だからな。
「その事を理人に話したら、『そんなことはないよ?俺は桃李が死んだら悲しいよ。もちろん葬式でも泣くよ』って言ってた。だから、私の葬式では理人しか泣かない…」
自分で話していて、自分でずーんと勝手に落ち込んでいる。
それ、何の心配?
オチもなさそうだ。
「縁起でもねえこと言ってんじゃねえよ…命助かったばかりだっつーのに」
「そ、そうだね…ごめんなさい」
なんつーことをネタに会話をしてるんだ、俺達。
なぜ、こんな変な方向に行ってしまったのか。
話題を変えよう。
「…そういや、松嶋に何をされたんだ?」
「えっ?」