王子様とブーランジェール



桃李、声が裏返った。

その反応に少しばかりか驚いてしまい、思わず振り返る。

無意識にした質問だったけど、聞いちゃいけなかったんだろうか。



「な、な、何をされたって…何が?」

「いや、さっき、『松嶋が驚かせてきた』って言ってただろ。それで落ちたんだろ?」

「あ、うん…」

「…で?」

「あ…いや…」




次第にうつむいて、沈黙してしまった。




え?何?

何で何も言わないワケ?

それは…言えないことなのか?



沈黙が続くにつれて、焦ってくる。

言えないことって、やっぱりそういうことを…?

痴漢まがいのことをされたのか?

それとも実は…って、どっちだ?!




焦りと混乱で思わずカッとなってしまった。

思いあまって、質問を投げ掛ける。



「え?何、おまえら、付き合ってんの?」



ズバリと核心をついた質問を…。

思わずしてしまう…。



「…え?」

「いや、だからさ」

「何?誰と?誰が?」

「いや、おまえと、松嶋がさ。付き合ってんのかなーって?」

「………」



桃李は…フリーズしてしまっている。

目を見開き、口がポカンと開いていた。

え、これ、どっち?どっちの反応?



「おい…」

「ばか…」

「…え?」

「…バカなんじゃないの!」



え?

ばか…って。



予想外の返答が返ってきて、軽く戸惑ってしまった。

ばか…バカって?

桃李が俺に対して!バカと!



「…あ、おい!」

今度は俺の手を振り払う。

不意を突かれて、手を離してしまった。

な、何で?!



「夏輝のバカ!」



そして、左腕を軽くバシッと叩かれる。

その顔は、ムッとふくれていた。

…え?叩かれた?




「冗談言うにも程があるでしょ!」



そして、両手で突き飛ばされる。

力弱いため、俺の体はびくともしなかったが。



え?…え?!

どうなってんの?!



桃李が俺に対して攻撃した…!

もちろん、そんなことは初めてだ。

初めての体験に、少しばかりか放心してしまう。



「そんなバカなことばかり言ってると、怒るんだからね!」



そう言って桃李は、駆け出す。

あ、おい!



「おまえ、また転ぶぞ!」



と、同時に、石に足を取られてすっ転んだ。

前から勢いよくバーン!と倒れた。

ったく…。



うつ伏せに倒れたまま、動かない桃李の傍へと行く。



「おまえ、やっぱり右足ケガしてるだろ」

「大丈夫です…」

「大丈夫じゃないだろ」

「もういいです…もういいです…」




< 114 / 948 >

この作品をシェア

pagetop