王子様とブーランジェール
もういいです、って何だ。
今の意味不明な行動、いったい何だ?
そして、結局こうなってしまった。
「夏輝…降ろしてください…」
「うるせえ。また転ばれたもんなら、次は顔面バッサリいくぞ」
また転ばれたらかなわない。
つい勢いで、なんと…お姫様抱っこをしてしまった。
先程の絶壁下りで、右足首をやはり負傷していた。
恐らく、石に挟まった時に違いない。
川へドボンしかけた時に、全体重かかったと思われるから、無理もない。
「たいしたことないのに…」
「うるせえってんだよ!絶壁転落後よりケガがひどくなってたら、俺いったい何やってたんだってなるじゃねえか!」
「ご、ごめんなさい…」
また、軽く怒ってしまった。
ホントもう、いい加減にしたい。
しかし、勢いでやったお姫様抱っこだが。
これ、結構しんどい。
いや、重たいとか体力面の問題は全然ないんだけど。
メンタル面がしんどい。
結構、密着してるよ…。
腰のあたりに左腕をまわし、右腕で両足を抱える。
桃李は、自分の腕を俺の首に回してはいないが…俺の左肩らへんにしがみついた状態と、何ともいびつな感じではあるが。
左肩から左胸にかけては、ヤバいぞ。
完全密着だ。
顔が近い。…近い!
抱えた感じ、柔らか…こら!
意識し始めてしまうと、気になり続けてしまう。
も、もたない…!
「さっきはごめんなさい…」
左肩にしがみついたまま、俺の方は見ないで呟いていた。
「…何が?」
「急に怒ったり叩いたりしてごめんなさい…」
「……」
あれは、やはり怒ってたのか。
急に爆発したもんだから、びっくりした。
やはり怒って…。
『夏輝のバカ!』
(かわいい…)
『バカなことばかり言ってると、怒るんだからね!』
かわいい…!
ムスッとむくれた顔。
バシッと叩かれた。
…なまら、かわいいじゃねえか!
いけない。
思い出したら、ニヤケそうだ。
攻撃されたことには、一瞬戸惑ったけど。
ソフトに怒りやがった。
かわいいよ、おまえ…。
んでもって、今、おまえは俺の腕の中にいるわけであって。
実は、最高のシチュエーションだったりする。
あぁ…照れる通り越して、頭が爆発して、何か出てきそうだ!