王子様とブーランジェール
彼女は大河原さんに手で『よけろ!』と指示している。
大河原さんは何のことかわかったらしい。
『はいはい』と言いながら、席を立った。
そして、彼女が俺の隣に来る。
あぁ…まずい。この展開。
彼女、嵐さんは座るなり、俺の方に近付いてきた。
かなり距離は近い。
今にも密着しそう。
そして、じっと俺の顔を見つめ続けていた。
な、何だよ…。
『竜堂くん…』
『は、はい…』
恐る恐る彼女の方を見る。
嵐さんはどことなく上目遣いだ。
『カッコいい…』
途端に飲んでたビールを少し吹き出しそうになった。
『な、な、なんすか急に!』
吹き出さずに済んだビールを飲み込んでから、思わず大声で返してしまった。
嵐さんは『やんっ!一年生可愛いーっ!』と、更に俺の方に寄ってくる。
もう体は密着してしまった。
『成績優秀で運動神経も抜群な、クールなイケメン一年生。背も高くて中学時代はサッカー部のエースストライカー。遊んでる風ではなくて、女の子には興味がなさげ…何もかも完璧じゃないの。綺麗な横顔…王子様みたい。次世代ミスターって騒がれてるだけあるわね?』
『はぁ…俺、学校で部活動してませんけど。クラブチームです』
完璧、ミスター…何が?
『身長何センチあるのー?』
『あ、180センチです…』
『彼女いるの?』
『いません…』
そして、嵐さんに質問責めされる。
どんな女が好みなのか、最近彼女いたのはいつとか。
って、何これ。
核心ど真ん中の質問!
思いっきりロックオンされてる!
まずい。
これは、どこかで逃げなくては。
『お先に失礼しまーす!』
なんて。
しかし、その逃げ道は閉ざされる。
気を取り直そうと、ビールのジョッキを手に取る。
グビッと一気に飲んだ。
(…ん?)
ビールだと思って飲んだのに。
全然違う味がして、一気にゴホッとむせてしまった。
な、何だこれ!
俺、何飲んだ?!
手に持ったジョッキは、ジョッキではなく。
先程、大河原さんの注文した冷酒のグラスだった。
い、いつの間に!
『竜堂、何ちまちま飲んでんだ。このビール、もうぬるいじゃんか』
向かいにいる吉原さんは、そう言って、ジョッキに入ったビールをごくごくと飲んでいた。
それ、俺の…。
すると、店員さんが『おまたせしましたー!』と、また飲み物を持ってくる。
またグラス!
『はい、これ竜堂の』
大河原さんが俺の前にまた日本酒を!
『ほらほら、今みたいに一気に飲め!飲まないと帰さねえぞ?』
『竜堂くん冷酒一気とかカッコいいー!』
先輩に強要され、無理やり冷酒を飲まされる羽目となる。
かなり断りづらく、飲むしかなかった。
その結果。