王子様とブーランジェール




「そういや、秋緒、この間テストで学年トップだったみたいだね。秋緒は高校でもすごいんだね。頭いい高校行ったのに」

「あいつのことは知らねえ。家に帰っても勉強してる姿しか見てない」

「自然研究会?だかに入ったって」

「何だその胡散臭い部活。アイツ自身が胡散臭いから仕方ないか」

「何てこと言うの…」






そうだ。気付かなかった。

高校入ってからは何かと忙しくて、こんな他愛もない世間話なんて、全然してなかったような気がする。

学校では、特に。



でも、何だか…。





「自然研究会で山登りしたり、バードウォッチングしたりするんだって。植物の観察もするって」

「うわっ。親父と一緒じゃねえか」

「親子だね。おじさん帰ってきた?」

「まだ。一回お盆休みに帰ってくるらしいけど…あ、この間、親父の鉢植えひっくり返した…ヤバい」





桃李と話してると、ホッとする。

忙しくしてる中、ようやく家に帰ってきた…みたいな。



普段、ドジばかりで挙動不審なダメ人間でも。

こうして二人でいる時は、ちゃんと話を聞いてくれて、してくれて。

たまに、笑顔も見せてくれて。

それが…嬉しいって、思っちゃうんだよな。





「そういえば、おまえ右足大丈夫なのかよ」

「ちょっと痛いけど、大丈夫。でも、体にアザ出来てた」

「マジか…いや、あれで大ケガしなかっただけマシか」

「お母さんに言った方がいいの?」

「うーん…でも眼鏡壊してるから、仕方ないんじゃね?」

「あぁぁぁ…怒られる…」






こんな感じでほのぼのしていて。

このままでいたい、とは思うけど。

でも…その先を見たいような気もするし。

何せ、俺の前でだけ、こうしていてほしい。



俺達の間に、他の誰かが入ってくるなんて。

俺以外の他の誰かとこうしているなんて、絶対嫌だ。




だから、やっぱり前に進むしかない。

この幸せな時間を、確かなものにするために。






しばらく二人で話に花を咲かせていると。

理人がブラリとやってきた。

げっ…来んなよおまえは!




「随分長いトイレだよね?」




あぁぁぁ…何かムカつく。




「あ、理人?帰りうちでパン食べてかない?お母さんがパン焼いておいてくれるの。夏輝も来るって」

「へぇー。行く行く」



何っ!…理人を誘った?誘うな!

ちっ…邪魔すぎる!




道のりは険しい…。







< 128 / 948 >

この作品をシェア

pagetop