王子様とブーランジェール
「そういや、秋緒、この間テストで学年トップだったみたいだね。秋緒は高校でもすごいんだね。頭いい高校行ったのに」
「あいつのことは知らねえ。家に帰っても勉強してる姿しか見てない」
「自然研究会?だかに入ったって」
「何だその胡散臭い部活。アイツ自身が胡散臭いから仕方ないか」
「何てこと言うの…」
そうだ。気付かなかった。
高校入ってからは何かと忙しくて、こんな他愛もない世間話なんて、全然してなかったような気がする。
学校では、特に。
でも、何だか…。
「自然研究会で山登りしたり、バードウォッチングしたりするんだって。植物の観察もするって」
「うわっ。親父と一緒じゃねえか」
「親子だね。おじさん帰ってきた?」
「まだ。一回お盆休みに帰ってくるらしいけど…あ、この間、親父の鉢植えひっくり返した…ヤバい」
桃李と話してると、ホッとする。
忙しくしてる中、ようやく家に帰ってきた…みたいな。
普段、ドジばかりで挙動不審なダメ人間でも。
こうして二人でいる時は、ちゃんと話を聞いてくれて、してくれて。
たまに、笑顔も見せてくれて。
それが…嬉しいって、思っちゃうんだよな。
「そういえば、おまえ右足大丈夫なのかよ」
「ちょっと痛いけど、大丈夫。でも、体にアザ出来てた」
「マジか…いや、あれで大ケガしなかっただけマシか」
「お母さんに言った方がいいの?」
「うーん…でも眼鏡壊してるから、仕方ないんじゃね?」
「あぁぁぁ…怒られる…」
こんな感じでほのぼのしていて。
このままでいたい、とは思うけど。
でも…その先を見たいような気もするし。
何せ、俺の前でだけ、こうしていてほしい。
俺達の間に、他の誰かが入ってくるなんて。
俺以外の他の誰かとこうしているなんて、絶対嫌だ。
だから、やっぱり前に進むしかない。
この幸せな時間を、確かなものにするために。
しばらく二人で話に花を咲かせていると。
理人がブラリとやってきた。
げっ…来んなよおまえは!
「随分長いトイレだよね?」
あぁぁぁ…何かムカつく。
「あ、理人?帰りうちでパン食べてかない?お母さんがパン焼いておいてくれるの。夏輝も来るって」
「へぇー。行く行く」
何っ!…理人を誘った?誘うな!
ちっ…邪魔すぎる!
道のりは険しい…。