王子様とブーランジェール
「おおっ!夏輝すげーな!」
授業が終わり、家庭科室から戻る際。
通りすがりの職員室の掲示板の前で、陣太が立ち止まる。
「どれどれ?」
咲哉も掲示板を覗き込む。
…あ。それか。
「期末テストの順位表…夏輝、総合一位だってよー!」
「マジ?総合優勝?」
優勝?テストに優勝…ちょっとウケるな。
咲哉の何気ないボケに、ちょっとハマったわ。
「確か夏輝、中間も総合一位じゃなかった?」
「へぇー。じゃあ優勝二連覇か」
「宿泊研修に教科書持ってくるヤツは、やっぱり違うな」
陣太、その話はやめろ。
その気持ち悪い過去、どうかしてたわ俺。
期末テストも終わり。
ようやく7月。
北国も、完全に夏の陽気となった。
学校内は熱気が漂っている。暑い。
学校祭も近いあたり、気温のせいだけじゃなさそうだ。
「サッカー部は優勝しなかったの?」
階段を上がりながら、理人が話を振ってくる。
実は、テスト明けの週末。
インターハイ予選の決勝があり。
「負けましたよ。でも準優勝までインターハイ行けるから。おかげで先輩たちまだ残留。来週から夏リーグも始まるし」
昨年からの連覇はならなかったが、インターハイ出場は決定。
おかげで、夏休みはお盆まで部活漬けだ。
ここ数年、ここのサッカー部は強豪校として頭角を現しつつある。
だから、受験したんだけど。
冬の選手権は、地区予選決勝で惜しくも敗れてしまい、全国大会行きを逃す。
今回に関しても、準優勝ばかりのため、先輩たちの気合いの入りようと言ったら…。
「しばらく、部活漬けになりそうだ」
「残念だねー。でも母さん夜勤の日はお邪魔するかな」
「夏休み恒例だな。夕飯にまた肉巻きおにぎり作ってやるか?」
「肉巻きおにぎりもいいけど、チャーハン作ってよ。って、疲れた部活の後にご飯作れんの?」
「何でも任せとけ。体力面は誰にも負けねえ」
そんな夏休みの計画とか、他愛もない話をしていて油断していたが。
奇襲というのは、言葉通り、突然やってくる。
「…あ、俺、キャプテンに呼ばれてんだった。先に弁当食べてて」
理人は突然立ち止まり、二年の教室のフロアである二階へと引き返す。
姿も見えなくなった。
その時だった。
「…あれー?竜堂くーん?」