王子様とブーランジェール



「まあ、完璧なイケメンはいないってことですな」

理人がそう言ってプッと笑う。


「何だよその結び…」

「だからおまえはイケメンのくせに男友達が多いんだと思うけど。これで、本当に完璧イケメンだったら、誰も友達いないと思うけど?イジり甲斐ありー」


イケメンイケメンうるせえ…。

イケメンと言われたばかりに、女豹に目をつけられこんなことになってしまったんだ。

今の俺にとっちゃ、迷惑以外何者でもない。



しかし、まずった。

突然のこととはいえ、同じ高校の女子だぞ?

噂になりゃ、必ず…。



教室の隅に、視線を移す。

そこには、俺の想い人がいる。



「あれ?休み時間終わっちゃうよ?」

「桃李、糸田先生に呼ばれてなかったっけ?」

「…あれ。そうだっけ」



桃李が、黒沢さん(クロワッサン…)や他の女子と談笑していた。



同じ高校のことだ。

ひょっとしたら、巡りめぐって桃李の耳に入るかもしれない。

正直、桃李にはあまり知ってほしくない…。




(あぁ…)




ものすごい罪悪感に見舞われる。



だが、ハメられたとか、ハメたとか言っていても。

結局はやっぱ自分が悪い。




「はぁ…」


ため息が出る。


「まあまあ、桃李のことだから、その話を聞いたところでひょっとしたら意味がわからないかも」

「わからないワケないだろうがよ…」



すると、突然。

噂の女豹が来襲することとなった。


教室の出入口付近から、「ちょっとどきなさいよ!」と、女子の声がする。

おい、この声…。



「竜堂くぅーん!!」



自分の名前を呼ばれて、その正体を確信する。

やっぱり!


教室の出入口には。

あの時の彼女の姿が。



「竜堂くーん!遊びに来ちゃったー!」



あ、嵐さん!

こっちに向かって手を振っている。

まさかとは思ったが、教室にまで来てしまった!

嘘っ!一年の教室だぞ?


嵐さんは手を振りながら、俺の方に向かって教室に入ってくる。

堂々と入っちゃうの?


「竜堂くん、会いたかっ…きゃっ!!」



その時。

嵐さんは、悲鳴と共に吹っ飛んだ。

よろめいて尻もちをついている。



「痛っ…何すんのよ!」



少し低い声で怒鳴り散らした。

さっきの俺を呼んだ高い裏声とは全然違うな。



「あいたたた…ご、ごめんなさい」



(…何っ!)



嵐さんの反対方向に同じように転がっているヤツがいる。
手をついてうつむいていた。

うつむいたまま、右手がわさわさと左右に動いている。


「め、眼鏡眼鏡…」



眼鏡?なっ…!



と、桃李!

おまえぇぇぇっ!


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