王子様とブーランジェール



「おまえはこっちだ!」



そのままジャージを掴まれ、引きずられて行く。

向かった先は、先程道具を出した倉庫。

やはり、倉庫の掃除をするという話は本当なのか。




しかし、何てことだ…。

桃李がペナルティの入部…。

今までに遅刻30回?ほぼ毎日遅刻じゃねえか!

桃李の遅刻が当たり前になりすぎて、何の違和感もなかった。

その他にも、糸田先生の呼び出し、個人指導を全てすっぽかすだなんて。

これは相当なチャレンジャー、恐いもの知らずだ。

恐らく糸田先生は、遅刻30回より、すっぽかしの方をお怒りであろう。



2週間か…。



率直な感想。

おもいっきり、やりづらい。



練習中、必ずどこかに、近くに桃李がいるんだぞ?

何かやらかしてないか、気になって気になって仕方がなくなるに違いない…!




「…竜堂!何やってんだ!」

「走るぞってーの!」

「…あ、今行きます!すみません!」



いろいろ考え事をしていたら、出遅れた。



そう言っている傍からもう気になっている。

大丈夫なのか。アイツ、ちゃんと掃除出来るのか?

更なる先生の怒りを煽ってんじゃねえだろな。



集中できない…!








あれから。一時間以上過ぎた。

練習も中盤に差し掛かっている。




倉庫の方をチラッと見てしまう。

動きはないようで、まだ桃李と先生は中にいるのか。

ここから倉庫まで、距離が遠くて中の様子が全然わからない。

どうなってるのか、気になる…!



ちゃんと雑巾絞れてんのか?!

だらだらやってないだろうな?!

備品、壊してないか?!

たかが、虫が出て大騒ぎしてないだろな?!




「夏輝、さっきのパス練、ミス多くなかった?どうしたの?」

倉庫の方を見ていると、あゆりが話し掛けてくる。

「いや、別に…何でも」

ちっ。

倉庫のおかげで、集中出来てない。

まずいな。

あまり気にしないようにしなくては…。




「次、シュート練やるぞー!」

「…あれ、マーカー足りなくね?」

「マネージャー、マーカー足りないぞ!」



先輩がたが、グラウンドの真ん中で騒いでいる。

隣であゆりが「す、すみません!」と頭を下げていた。

ったく。偉そうにしてないで、自分で取りに行けばいいのに。


…待て。

待てよ?

マーカーは…倉庫にある!



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