王子様とブーランジェール
辺りが薄暗くなってきても、終わる様子は一向に見られない。
部員たちが帰途に着き、その場から誰もいなくなってしまった頃、桃李が倉庫からようやく姿を現していた。
外に置いてあるものを、ようやく中へ搬入する様子である。
だが。
「…あぁ?まだいたのか?このパーマネント!」
糸田先生だ…!
ちょっと離れた場所で様子を見ていたのに、こっちにわざわざやってくる!
近づいてくる糸田先生の表情はまたしてもお怒りの様子だ。
こっちに来るなり、俺のパーソナルスペースに入り込むと、右足を振り上げてくる。
またタイキックか!
しかし、攻撃の手は完全に見えているので、ちょっと後退して、ひょいとかわす。
回避されると思っていなかったのか、先生の眉間にはシワが寄った。
「…あぁ?かわすとはいい度胸してんじゃねえか!」
「一度くらった攻撃は、二度とくらいませんけど」
「んだと…!っつーか、もう8時になるぞ。帰れ」
糸田先生に帰宅を促される。
しかし、退く気はない。
「先生、辺りはもう暗いですよ。まだかかるだろうし、俺、帰り道なんで送っていきます」
「…あぁ?神田のことか?」
「はい」
とは、言ったが。
例え、先生であれ、夜に大人の男と外で二人きりにさせるだなんて。
何か嫌だ。
勝手な憶測だけど、セクハラ疑惑もあるし。
まあ…わかっちゃいるんだけど。
「ダメだ」
あっさり却下された。
「何でですか」
「ダメだと言ったらダメだ。おまえはさっさと家に帰って大量のメシ食ってさっさと寝ろ。あいつは俺が車で送る」
「そんな、帰りまでわざわざ先生が送らなくてもいいと思いますけど」
「…ああ言えばこう言いやがって!クソ生意気なガキだな?」
「よく言われます」
「ダメだと言ったらダメだ!」
ちっ。
何でダメなんだ。
本当にマジでセクハラする気なんじゃねえだろな。
しかし。
その後、何度か問答を繰り返しても。
何で、ダメだの繰り返しの平行線。
終いには、背中を引っ張られ、グラウンドから引きずり出される。
「…家に電話するぞ?このパーマネント!ママに迎えに来てもらうか?あぁ?」
と、怒鳴られ。
しょうがなく帰ることにした。
お母さんが迎えに来るとか、DKとしてはこっ恥ずかしい…!
あの怒り具合じゃ、本当にマジで電話する勢いだ。
負けた…!