王子様とブーランジェール
『慎吾的には、お綺麗な王子様フェイスの夏輝が女装すると、本気で美人のチアガールになってしまうから、多少男くささのある俺がやった方が面白いんだってさ。それに夏輝はダンス出来なさそうだしって』
よくわかってるじゃないか。
よくわかってるじゃないか!
恐ろしい…絶対無理。
女装してダンスなんざ、死んでも無理。
『それに、桃李だって頑張るんだから、俺だって頑張らないと』
そうなのだ…。
このダンスチーム。
なぜか桃李もメンバーに加わってる…!
運動神経ゼロの桃李だぞ?
砂利道歩けばすぐ転ぶ、桃李だぞ?
気は確かか…!
理人へのオファー話を含め、その話を聞いたのは、先週のことだった。
桃李が、学校祭のステージでダンスをする。
でも、まあ、チアダンスって大勢でやるんだろ?
チームメンバーは総勢13人。理人入れて14人。
奥の方で埋もれてしまえば目立たないか。
『動画見る?』
理人にその十数年前の元の動画を見せてもらう。
懐かしい感じもあるな。
随分とキレッキレなダンスだ。
『ちなみに桃李はこの役。このポジションで踊るんだってさ』
…はぁっ?!
その位置を見て、驚愕。
そこは…前列、センターの右サイド!
一番前?!
一番前だぞ!
『…松嶋ぁーっ!!』
もちろん、松嶋に物申す。
『物申すって、ダンナ…小学校の学芸会によくいるモンペア?』
いやいや、そうじゃない。
ダンスチームのことを考えて言ってるんだ。
これは絶対無理だぞ。
桃李に、こんなキレッキレなダンス、踊れるわけがない。
ましてや、前列センター右サイドなんざ。
なぜ、桃李が前列で?
なぜ、桃李なんだ!
『それは、鉄板だにゃ。うちのクラスの美女ツートップが前列に来るのは当たり前ーっ!』
なっ…美女ツートップだと!
『柳川の優未とー。桃李でしょ。うちの美女ツートップといえば』
おいおい。何言ってんだよ。
桃李だぞ?
あの、ライオン丸眼鏡の桃李だぞ!
そんな理由で前列にしてるんだったら、絶対ケンカが起きるからな。
女の争いは恐いぞ?
知らねえぞ?
『え?桃李、美少女でしょ?眼鏡外したら…』
その言葉の続きは、口を手で塞いでやった。
おまえ!他に聞こえるだろうが!
まさか、おまえ、ステージで眼鏡はずさせる気じゃねえだろな!
すると、松嶋は『さあー…』と、言葉を濁す。