王子様とブーランジェール
狭山がこの1年3組に用事って…。
警戒しながら、様子を見守る。
すると、あっという間に狭山と目が合ってしまった。
「…そこか!竜堂!」
…あぁっ!やっぱり俺か!
存在がバレてしまったので、素知らぬフリをしているわけにはいかなくなった。
「何だよ!こんな時間に!」
俺が反応すると、狭山は急に嬉しそうにニヤニヤと悪い笑みを浮かべる。
「…竜堂?約束を果たしにきてやったぞ…」
約束?
フフッと一人で勝手に笑い、話を続けている。
「白昼堂々と校内でイチャこきおって…」
その一言に。
ギクッとさせられる。
『嵐とイチャこくことがあれば、また動画撮ってやるわバカめ!3Dプリンター使用、楽しみにしておれ!』
…な、何っ!
ま、まさか!
ここで?!
「…ヘイカモン!美梨也!」
「はいはーい」
美梨也が廊下からひょっこりと顔を出している。
「ハロー!一年生!」と、手を振っている。
そして、デカいブツを抱えて教室に入ってこようとしていたが、そのブツがドアの枠にガスッ!と擦ってしまい、「え?」と、立ち止まってキョロキョロしていた。
「コラァ!ブツは丁重に扱え!」
「だってーデカいんだもん!…よいしょ!」
美梨也が肩から降ろしたもの。
それは、想像通りのモノだった…。
教室内には、微妙な騒つきと空気が…。
「どうだ竜堂!約束通り作ってきてやったぞバカめ!」
等身大パネル…。
約束通り、もちろん、先日の嵐さんとの出来事の…。
壁ドンもどきのキスシーン…。
それは、まるで、映画館に置いてあるような、宣伝パネルだ。
「どうだ!この完成度!」
「美梨也、一晩で作っちゃいましたー!この嵐がネクタイホールドしているところが何かいやらしいよねー」
「この写真のアングルも見事だ!横川、カメラワーク良すぎるぞ!菜月も大絶賛だ!」
陣太の声が「あざっす!」と、向こうから聞こえる。
おまえの撮った写真か…!
やりやがった…。
冗談だと思っていたが、相手は狭山。
本当にやりやがった…!
突然の襲撃に、恥ずかしさが怒りと共に込み上げてカッとなる。
しかも、わざわざ教室に持ってきて、クラスメイトに御披露目しやがって!
こんの…!
「…っつーか、3Dじゃねえし!」
「ツッコミどころはそこか!バカめ!」