王子様とブーランジェール
「…あれー?糸田さんは?」
「職員会議だとさ」
「だからメガネもいないのか」
「さあ…」
夕方の練習を終えて、先輩たちとだらだらと片付けを行う。
今日は糸田先生も桃李もグラウンドに姿を見せなかったため、マネージャーたちと一緒に、久々に自分たちで片付けをした。
金曜日は毎週ミーティングがあるので、練習は少し早く切り上げる。
全員で取りかかれば、だらだらやっていても、さっさと終わる。
毎回こうすれば?と、思ってるんだけど。
今日は、静かだった。
糸田先生と桃李、あの二人がいないだけで、こうも静かなのか。
先輩たちも違和感があったらしい。
俺は、おかげさまで何も気にせず練習できた。
っていうか、早くこういう日々が訪れてほしい。
「あー終わった終わった」
「腹減らねえ?さっさと会議室行くぞ」
「今日のおにぎり、中身何だと思う?」
「先週、ツナマヨだったから、今週は梅じゃね?」
「竜堂、おまえ何おにぎり好き?」
「俺は肉味噌かカルビです。あとザンマヨ」
「全部変わり種で、しかも肉か!」
「まゆマネに肉味噌を求めるのは難しいな」
ミーティング中に提供されるおにぎりの話をしながら、先輩の後ろを着いて歩く。
だがそこに、一人ベンチに座って遠い目をしている先輩の姿が目に入った。
木元さんだ。
何か、黄昏てる?
でも、イケメンだから、様になってる。
そんな先輩に一声かけた。
「木元さーん。ミーティング始まりますよー。行きましょー」
「あ、あぁ…」
何だろうか。ちょっとボーッとしてるぞ。
すると、大河原さんが「いい、いい。ほっとけ」と横で笑っている。
「キモティーは時期的にうつ病なのだ」
「…はぁ?何でですか」
「学校祭近いから…ぷぷっ」
すると、俺達の会話が聞こえてきたのか「うるせえぞ!」と、怒鳴られる。
しかし、大河原さんはそんなの構わず話を続けていた。
「今年のミスコン…ひょっとしたら、優勝はキモティーかもしれんからな。それで憂鬱になってんだよ。ぷぷっ…」
「あぁー…」
学校祭で行われるミスターコンテストのことか。
「確かに、木元さんカッコいいですもんね。ファンの人も試合見に来てるし」
「そうそう。木元は昨年、3位受賞してんのよ。ちなみにミスターと準ミスは俺らの一個上でな?この二人は3年間不動だったわけよ。しかし今年は、その不動の二人が卒業していなくなった今…」
なるほど。
不動のツートップがいなくなった今年。
順当に行けば、今年の優勝は木元さんってことか。