王子様とブーランジェール



「でも、何で憂鬱になってるんですか?別にたいしたことじゃ…」

「大したことだって!」

わっ。怒った。普段怒らない人だから、ちょっとビビる。

「まあまあ木元。竜堂は一年だから、知らないのは無理もない。ミスターの恐ろしさを…」

ムッとしている木元さんを、大河原さんは宥める。

「はぁ、恐ろしさですか…」

「そうよ。ミスター星天高校、と言っちゃ学校1のイケメンという、栄誉ある称号だ。他校の連中も注目していて、その人気は校内に留まらず、大分広い範囲で騒がれることになるんだとよ」

「ふーん…」

「しかしな?栄誉ある称号の裏は…女子生徒の餌食ってヤツだ。事あるごとに、あちらからこちらからファンが涌き出て追いかけ回されるわ、もみくちゃにされるわ、終いにはファン同士で抗争が起き、先代ミスターの時は、救急車が学校に来たぞ…?」

救急車ぁっ?!

なぜ、救急車が来校…!

ふと、狭山らの顔が思い浮かんだ。

あいつらなら、救急車沙汰もあり得る…!




「もし、木元がミスターになったら、今まで以上に教室にもグラウンドにもいろーんなところにファンが押し掛けることになる。んで、嫉妬深い坂下とファンとの抗争が…」

「大河原ぁっ!!」

「そんでもって、ファンとの抗争に疲れはてた坂下は、ついにぶっ壊れ、他の男に走り、木元のもとを去る…ついでに木元もファンと浮気をする、みたいな」

「やめろ!縁起でもねえこと!浮気なんかしねえし!」

木元さんがまた大河原さんに反論し、今にも喰ってかかりそうだ。

もしもの未来に大興奮で本気で怒っている。

その未来、最悪でしょ。

よほどナーバスになっているのか。

大河原さんが手を叩いて爆笑しているけど、木元さん、いじられてんの気付かないのか?



木元さんは深いため息をついた。



「もぉー…最近この話題になればケンカになるし、当たりが冷たいし、女子たちもやたらと寄ってくるし、うんざりだわ…俺は毎日平和に暮らしたいってのに…」

脱力してだいぶうなだれてる。

「すっげぇムカつく悩みだな。おまえ死ねばいいのに。まあ刺激が欲しけりゃバカになれっていうけど」

「刺激なんかいらねえよ…優里沙いなくなったら、俺生きていけない…」

すげえクズ臭のする発言だな。

だけど、この木元さんの悲しそうな顔を見ていたら、なぜか胸キュンしてしまった。

さすがイケメンの技(…)。



< 161 / 948 >

この作品をシェア

pagetop