王子様とブーランジェール
グラウンドで話し込みすぎたのか、咲哉がわざわざ『ミーティング始まりますよー!』と、走って呼びに来てくれた。
元気のない木元さんを連れて、会議室へと向かう。
室内はすでにほとんど全員揃って席に着いていた。
やばっ…。
「おーにぎりの登場でぇーす!」
中に入ると同時に後ろからまゆマネが登場した。
いつもの寿司桶を二個重ねで持っている。
「重い重い!竜堂くん一個持って!ついでに配って!一人二個!」
「はいはい」
まゆマネから寿司桶を受け取って後ろの連中の方へ行く。
「一人二個だってよー」
かかっていたラップを開けた。
(…あれ)
おにぎりの様子がいつもと違う。
これ…。
何が違うのか、頭を整理していると、不意に横から寿司桶を取り上げられる。
「夏輝、何してんのよ!これはマネージャーの仕事でしょ!…っていうか、お姉ちゃんも夏輝にやらせないでよ!」
またあゆりだ。カリカリしながら、取り上げた寿司桶のおにぎりを速やかに配っている。
「だってー誰がやってもいいじゃーん」
「…あれ?まゆマネ、今日のおにぎりいつもと違わない?」
「ホントだ。まず見た目が違うな。海苔の巻き方違う」
「おしゃれな巻き方だな」
俺の他にも、おにぎりの異変に気付いたヤツがいる。
「…うわっ!やわらか…今日の美味くね?」
「うん、フワッとしてる」
すでに食ったヤツは、うんうんと頷いている。
「中身これ何?肉?」
「ごはん進む味だな」
「おばあちゃんちにありそうじゃね?」
「売り物のおにぎりみたいだな」
見た目からして、ピンときた。
「…あゆり、ちょっとひとつ!」
あゆりの後ろからおにぎりをひとつ拝借する。
手の平に収まるサイズのおにぎり。
海苔、いつもの縦巻きではない。
おにぎり屋さん巻きだ。横巻きで、斜めに返している。
やはり…。
中を真っ二つに割ってみた。
これ…肉味噌?
中にクルミが入っている。
やはり…!
これ、神田家のおにぎり…!
すると、まゆマネはなぜか自信満々に答えていた。
「今日のおにぎりは、まゆマネじゃなくて、メガネちゃんが作りましたー!超上手でしょー!中身はメガネちゃんお手製の肉味噌でーす!」
やはり…桃李が作ったのか!