王子様とブーランジェール




予定を簡潔に伝えたら「あとは頼む」と、糸田先生はさっさと会議室を出ていってしまった。

忙しいのか。珍しいな。ミーティングを抜けるなんて。

すると、圭織が「この後、桃李、部室掃除するみたいよ…」と、コソッと教えてくれた。

掃除?い、今から?

帰り何時になるんだ…。



今日もすれ違いで、顔を合わせず仕舞いだった。



翌日の土曜日も、1・2年だけのビジターの練習試合で、グラウンドには戻らずに午後に解散。

桃李はグラウンドにいると思われたが、帰りに学校の前を通った時には、もう夕方の4時頃。

すでに三年生の練習は終わっていて、やはり、顔を合わせることがなかった。



帰り道、桃李の家の前、パンダフルの前を通るが。



もう、ヘトヘトだよな。きっと。

一週間、働かされ続けてたんだから。



なんて、変に気を遣ってしまい。

寄ることもできず。



何か…いたらいたで、集中できないだのペナルティ入部早く終われだの思ってるのに。

顔を合わせてないだの、話をしていないだの。

俺はいったい、どうしたいんだよ。

わかんねえ。



これ、結構…参るわ。








そのまた翌日。日曜日。



「…え?チャーハン?」

「うん。うまかった」

木元さんは頷いた。



チャーハンって…。



昨日は、三年生だけ、グラウンドで練習。

糸田先生は、俺達1、2年の方に来ていたため、さぞゆるゆるで練習していたとのことだった。



『昨日のおにぎり、めっちゃうまかったよ』



まゆマネと一緒にグラウンドのライン引きをやっていた桃李。

そこへ、そう言ってやってきたのは…蜂谷さん?

『は、はぁ…』

『………』

桃李は、そう答えるのみで、目も合わせずにライン引きを続けていた。

だが、そこを見逃さないのが、うちのキャプテンだった。

『…何で目を合わさないの?』

『…あ、い、いえ…そ、そんなことないです…』

と、言いながら、チラッと見るがすぐに逸らしたらしい。

…絶賛、人見知り中だ。

あまり接点のない、体育会系男子。

しかも、どストレートに話しかけられると、どうしていいかわからなくなってるに違いない。



『………』



しばらく、見つめられていたらしいが。



『…メガネえぇぇーっっ!!』


突然、蜂谷さんが桃李の耳元で叫んだ。



『ぎゃああぁぁっっ!!』



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