王子様とブーランジェール




…だが、神経質の単なる思い過ごしでもなかったようだ。



「蜂谷、メガネのこと気に入ってんじゃねえかな」

「…え?」


それは…。



「神田コラァーっ!!さっきから何をモタモタしてんだおまえはあぁぁーっ!!」



糸田先生の怒鳴り声が、ここぞとばかりに響いた。

またか…。



「せ、せ、先生!動かない!こ、こ、これ、動かない!」



桃李は、台車に大量のいろいろな備品を乗せて押していたが、さっきからポロポロと物を落としては立ち止まり…。

挙げ句の果てには、どうやら台車が急に動かなくなり、台車と先生を交互に見ながらあたふたしている。

あたふたする度に、眼鏡がずれては直して、何とも落ち着きのない様子だ。

「…台車にロックかかってるじゃねえかぁっ!そんなこともわからないのかおまえはあぁぁーっ!!」

「え?え?え?ロック…」

桃李がロックを探しているようだが…下を向く度に眼鏡がずれては直しての繰り返している。

眼鏡…フレーム調整したのか?してないだろ。

あれほど言ってんのに…。



その桃李の挙動不審な様子を黙って見ている糸田先生。

何か…全身、プルプルさせてる。

表情も、かなりお怒りの様子だ!



「…おまえの!…眼鏡えぇぇーっ!!」

「…ひいぃぃっ!!」



先程の怒鳴り声より、はるかに響き渡った…。




その後、何とか荷物を運び終えた桃李だったが。

間もなく、糸田先生に首根っこを掴まれ、校舎の中へと消えていった…。

今度はお説教タイムだろうか。

やれやれ。








「…坂下!」



あれから、一時間弱。

糸田先生だけが姿を現した。

桃李はいない。



「はい!どうしました?先生」

練習に混ざって笛を吹いていた優里マネ。

気持ち駆け足で先生の方へと向かう。

「坂下、これからあのヘタレ神田とおつかい頼むわ」

「おつかい?何の買い出しですか?消耗品の買い出しは先週行ってきましたが…」

「まあ、ちょっと説明するから…来てくれや」

「はぁ…」

そうして、今度は優里マネが糸田先生と校舎に消えていった。

何だ何だ。

何のおつかいだ。

桃李が一緒に行く買い出し…。

超重たいものでも、運ばされるのか?

米?米か?

10kg二袋一人で持たされるとか?

チャーハン、出てくるとか?




しかし、それが、騒動の始まりだったりする…。





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