王子様とブーランジェール
「え?坂下、まだ帰ってこれないの?」
急に蜂谷さんが現れた。
木元さんのケータイを覗きこんでいる。
「『大変なことになったから来て』って何」
「さぁ…」
横でその話を聞いて、一気に胸騒ぎがした。
な、何だ?
何があった?何があったんだ?
まさか、桃李のヤツ…何かやらかしたのか?!
コンコースで米ぶちまけたとか?!
線路に落ちたとか?…また滑落か?!
…あぁっ!いったい何があったんだ!
「とりあえず、俺、行ってくる」
木元さんはケータイを手にしたまま、カバンを担いで立ち上がる。
「じゃ、お疲れ」
「あっ…俺も行きますか?もし何かあったんだったら…」
慌てて思わず口走ってしまった。
桃李に何かあったか…と、いうよりは、優里マネに何か迷惑をかけたんじゃないかと思うと、気になって気になって仕方がない。
もし、何かトラブルなら、内容によっちゃ男手は必要なわけで…。
すると、俺の目の前に蜂谷さんが現れた。
「大丈夫大丈夫」
肩をポンポンと叩かれる。
「ここは、責任者の俺が一緒に行くから。大丈夫、心配しないで?」
「で、でも」
「きっとたいしたことじゃないって。大丈夫。竜堂はイオンでコーヒーフロートでも飲んどいて?じゃ」
「…あ、ちょっと!蜂谷さん!」
そう言って、蜂谷さんは俺達に手を振って、先に行った木元さんの後を追った。
早っ。行動早すぎるわ。
しかし、何があったのだろうか…。
優里マネが『大変なことになったから来て!』って。
あの気の強い、しっかり者の優里マネが、大変だと思うことって…実は、結構なトラブル級の出来事ではないだろうか。
しかも、クズ臭のする彼氏(…)に助けを求めるぐらいだぞ?
本当に、大変なことになったんじゃなかろうか…!
…あ、いやいや。木元さんのクズ臭がするって言うのは、あの場限定かもしれず…。
って、そんなことはどうでもいい。
でも、やっぱり気になる。
やっぱり着いて行けばよかった…。
しかし、あの場は、蜂谷さんにサラッと押しきられてしまった感が…。
結局、3年含めみんなで冷房のきいた涼しいイオンに来てしまったが。
実際、俺はそれどころではなく。
頭の中では、延々と後悔の念が巡る。
「…っつーか、大河原さん、俺のコーヒーフロートのアイス、箸でつつくのやめてもらっていいですか」
「ちっ。イケメンだからって、こんなおしゃれなモン飲んでんじゃねえや」