王子様とブーランジェール






「…神田ってのは、いるかぁーっ!」






帰りのホームルームも終わって、先生がいなくなり。

生徒たちが帰り支度を終え、徐々に教室から出ようとしているその時だった。

俺も、だらだらとしながらも準備も終えて、咲哉と部活に行こうかと思っていたところ。



教室に突然現れた。

まるで、道場破りのように。

ものすごい気迫で、唖然としてしまった。

このご時世に…何?



かなり派手目のギャル。

髪が金髪に、ピンクのメッシュが入ったゆるいウェーブのロングヘア。

このお真面目進学校に、こんな髪形の女子がいるなんて。

化粧もばっちりとしていて、小柄な女子だ。




って今、神田って…桃李のことか?



しかし、捌けかけていたクラスメイトたち。

気付いてそっちに注目したやつもいるが、あまり気に止めず談笑を続けているやつもいた。



シカトされたと思ったのか。

その派手目ギャルが教室にずかずかと入ってくる。

通りすがりの無人の机を、「オラァ!」と叫びながら、ガンッ!と蹴り倒した。



「きゃーっ!」

「シカトしてんじゃねえぞ!この一年坊主ども!」



机の倒れた方向にいた女子達が悲鳴をあげる。

今の騒ぎで、一瞬にして静まり返る教室内。

誰もがそのギャルに注目していた。

随分とクレイジーな女子だ!



「神田だ神田!…神田ってヤツはどこにいる!パン屋の娘の神田だ!」



パン屋の娘…やはり桃李のことか!



クレイジーギャルは、ぎっちりと睨み付けながら教室内をゆっくりと見回す。

桃李の姿を探してるようだ。

その目はまるで獣だ。




俺も同時に目で桃李を探す。

たぶん、ヤバいぞ。




桃李のヤツ、今度は何をしたんだ。

こんなギャル…振る舞いはまさしくヤンキーだが。

こんなヤンキーギャルとどこで接点が!

ヤンキーギャルに何をした!




…あ。

桃李を見つけた。

まだ教室にいたぞ。




ヤンキーギャルが入ってきた出入口とは反対の出入口から。

カバンを背負って、こっそりと出ていこうとしている。

ヤンキーギャルを視界に入れながら、音もたてずにソロリソロリと歩いていた。



桃李、おまえ…。

逃亡する気か…。



来訪者の剣幕で、さすがの桃李も身の危機を感じたのか。

ヘタレにこっそりと逃げようとしていた。




もう少しで廊下に出られる。

その時だった。



「…あれ?エリ、この子じゃない?この天パ眼鏡」



退路を塞ぐかのように、桃李の目の前にスッと現れたのは。

茶髪ロングヘアの、またしてもギャル。

なぜか左手にはノートパソコンを抱えていた。



「ひいぃぃっ!」



目の前に突然現れたギャルにびっくりして、桃李は汚い悲鳴をあげる。

後退りする桃李の右腕を、掴んで引き寄せた。


「エリ、捕まえたよー!」

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