王子様とブーランジェール








「木元さん」



翌日。

朝練終了してからの更衣室での着替え中。

さりげなく木元さんの近くに寄ってみる。

「お疲れさまです」

「ん?お疲れ…おまえ、結構肩筋ついてんだなー」

「そうすか」

「わっ。肩だけじゃなくあちこち結構ムキムキだな。着痩せするの?」



ムキムキとか着痩せとか別にどうでもよい。

昨日、札幌駅で何があったのか。

学校に来たら、思い出してしまい、朝練中にも関わらず、気になって気になって仕方なくなった。

朝練中にもその話題にならなかったし。

優里マネはなぜかグラウンドに姿を見せなかったし、蜂谷さんはいつも通りフリーダムであんな感じだし。

これはもう、木元さんに直接聞いておくしかない。

そう思った。



「昨日の大変なことって、いったい何だったんですか」



遠回しにオブラートに包むことなく、ズバリ聞いてしまった。



「…ん?昨日って?…あ。あぁ…あのことか」

そう言って、木元さんはシャツのボタンを留めている。

黙って考えごとをしながら。

「あぁー」

「…え?」

「…え?」

「じゃなくて、何なんすか」

「あ、あぁ…うまく言えないんだけど…」

「え?」



大変なことだったけど、たいしたことじゃないこと。

でしょ?

だが、首を傾げている。



「竜堂さー。あのメガネと同じクラスなんだろ?」

「え?あ、はい」

「じゃあ、朝教室行ったらわかるんじゃね?」

「はぁ?」



そのセリフは、どういう意味を持つのか。

説明出来ないことでは、ないと思うんだけど。




しかし、不意討ちっていうのは、言葉の通り。

ちょっと油断をすると、思いもかけないところでやってくる。

まさか、こんなところで、っていう。




「実はさぁ…」



だが、それは。

絶対、あってはならない。

俺が最も、恐れていたことだった。




「…えぇっ!!」

「…は?な、何でそんなに驚いちゃってんの?」



自分でもビックリした。

ここぞとばかりに、腹から声がでたぞ。

驚愕の叫びが。



ま、まさか…。

そ、そんなこと、あってはならない。

しかも、ここで?!



…や、ヤバいぞ!



着火したかのごとく、着替えの手を速めた。

は、早く教室、行かねば!

「竜堂?どしたの?」

「木元さん、続き昼休み…教室来て!」

「え、俺が?」

「3年4組、俺にとっては鬼門だから!」



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