王子様とブーランジェール




「は、はぁ?…ち、ちょっと!竜堂!」



着替え終わると、カバンを背負って慌てて更衣室を飛び出した。

ニットベストの裾を伸ばしながらも、教室に向かってダッシュをする。



なぜだ。

なぜ、そんなことになるんだ。



『…実はさぁ、昨日、優里沙、メガネの付き添いで眼科に行ったんだと』

『…眼科?目でもケガしたんすか?!』



誰の差し金なのか。

誰がいったい…!



『いや…そうじゃなくて。でもメガネ、別人になったぞ?あんなに変わるもんなの?』

『え?どういうことですか?』



ダメだ!ダメだダメだ!

それだけは…!





『…コンタクトを作りに行ったんだとさ』

『コンタクト…えぇっ!!』

『…は?な、何でそんなに驚いちゃってんの?』





コンタクトを作る。

イコール、眼鏡を外す…!




…なんてことだ!!




ダメだダメだダメだ!

その…その眼鏡を外してならない!

眼鏡を外したら…ダメなんだ!!




正面玄関口を見渡す。

桃李の姿は…ない。

…くそっ!



再び、教室まで走る。

階段ターボで何段も飛ばす。




早く、早く桃李を見つけろ。

人目に触れる前に!

見つけて、もし眼鏡をかけてなかったら…。

…家に送り返してやる!!

コンタクトなんぞ、ぶん投げて…眼鏡を再びかけさせるんだ!



…端から見たら、思考がぶっ壊れてるかもしれないが。

それは、俺なりの超身勝手な理由がある。

とっても、すこぶるくだらない。

松嶋が言う、『独占欲』以上の理由が。




4フロア分の階段を駆け抜け、廊下を走る。

駆け抜けて教室に入った。



「あ、夏輝、朝練お疲れ…って、どしたの?」



理人だ。自分の席に座っていて、陣太と一緒にいる。

息が上がっている俺を見て、ビックリしている。

「り、理人、桃李は…」

「桃李?まだ来てないよ?何で?」

まだ…?

じゃあ、時間ギリギリか!

それなら、もう一回正面玄関口に戻って…。



フラフラと教室を出ようとしたら、咲哉と鉢合わせた。

「おっ」

「おっ…じゃねえよ夏輝!何で俺を置いてっちゃうの!」

「ご、ごめん…」

「いや、いいんだけどさ…あ、陣太、陣太ちょっと!ちょっと!」

今度は咲哉が陣太の方へと寄っていく。

「咲哉お疲れ。何だよおまえも急いで」

「いや、ホントに急いで!っつーか、さっきそこで美少女に遭遇したんだけど!何年何組の誰か教えて!…ほら!すぐそこだから!」



…何っ!

まさか、すでに弊害が!



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