王子様とブーランジェール



「ひいぃぃっ!…あ、あ、あ、そ、それは…」

「それに、誰が眼鏡をはずせとおまえに言ったんだ!」

「い、い、い、糸田先生」

「あぁっ?!おまえテキトーなことばっ…」



(…あっ)



いつものように、汚い悲鳴をあげて怯える桃李。

俺もいつものように、雷を落とそうとしたが…。

…なぜか言葉に詰まってしまった。



俺の今の怒鳴り声で。

桃李が涙ぐんでいる。

目がうるうるしていて、黒目デカいもんだから、キラキラさていて…。



…ああぁぁっ!!

眼鏡がないから、はっきり見えるじゃねえか!

その泣きそうな表情が!瞳が!はっきりと!



最近の経過が経過なだけに、思わず言葉に詰まってしまったのである。



それに…。

…バカヤロー。

ドキッとしてしまった。

かわいくて、かわいくて。

キュンとしてしまったわ…!




「桃李、おはよう」



俺の横にはいつの間にか理人がいる。

こいつ、一部始終見てたな?

楽しみやがって…。




「り、理人、おはよ」

「桃李、コンタクトにしたの?」

「あ…うん、昨日」

「そっちの方が可愛いよ。似合ってる」

理人はそう言って、俺の隣でニコニコしている。

に、似合ってる…似合ってるとか!

こいつ!また歯の浮くような…!

またどストレートに感想言いやがって!



「…え?…え、え、あわわ…」



しかし、桃李は、みるみるうちに顔を赤くしている。

何?そのリアクション?理人に?

どういう意味?すげえムカつく…!

これも、眼鏡がないから、はっきり見えるじゃねえか!

…って、これも、いつもと同じリアクションか。

眼鏡とライオン丸ヘアーで、表情が隠れていただけで…。



「あ、ありがと…」

「ホントのこと言っただけだよ」



顔を赤くしすぎて、とうとううつむいてしまった。

それを理人はニコニコと微笑ましく見守っている。



…ぬおぉぉぉーっ!




なんだ!なんだなんだ!

何だこのムード!

桃李、何でそんなにゆでダコみたいに赤くなってんの?!

相手が理人だからか?!いや、どうなんだよ!

理人も理人で、『ホントのこと言っただけだよ…』って、直球すぎるんじゃねえのか!

ホント、歯が浮きすぎて、ゲロ出そうだわ!

俺が小間物屋を開きそうだ!




「…桃李?」




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