王子様とブーランジェール
松嶋の唐突なぶっこみに、あんなに騒がしくなっていた教室は一瞬で静かになった。
全員、さまざまな表情をしているが、だいたいは微妙な表情だったりする。
『わかっちゃいたけど、あえて触れないでおいた』みたいな…。
桃李が着ている学校指定のブラウスは。
肩のサイズも丈もジャストで少しピッタリめではあるが…胸が大きいため、そこだけ不自然なぐらいびちっと突っ張っていた。
そして、ただでも白という透ける色なのに、インナーも着用せず、ダイレクトに着てしまったがために…ブラジャーが透けてる。
色もラインも見事に。
俺だって、こっちに近付いてきて挨拶された時には、もうわかっちゃいたさ…。
細身なのに、胸だけがデカいがために、その胸の部分だけ不自然な突っ張り具合と、透けてるブラジャーとその色…。
昔から大きい方だと知ってはいた。
だから、制服も私服も胸がわかりづらくなるオーバーサイズのものを着ている、というのも双子の姉から何となく聞いている。
しかし、気付かないうちにこんなに胸が発育していたとは…。
「…ええっ!!…えっ?…えっ!」
松嶋に指摘されて初めて気付いたのか、慌てて自分の胸を見て触ってその現状を確認している。
挙動不審そのままに。
しかし、現状がやっとわかったらしい。
「…きゃあぁぁぁっ!!」
悲鳴をあげた。
汚くない、可愛い声の悲鳴だ。
同時に胸の部分を両手でバッと隠している。
「ぎゃははは!おまえ、何のコスプレかと思ったぜー!まるでロシアの人気アイドルデュオかぁ?」
松嶋は大爆笑したのち、『ディースィーザッイナーアーフ♪』と歌っていた。
「だ、だ、だ、だって、狭山さんが朝来て『これが今の流行りだからこれを着ていけ!バカめ!』って…!」
「あーあー。それは、おまえ、狭山さんに騙されたな?あの人イタズラ好きだからな?時代の流行りはゆるゆるオーバーサイズだぜ?」
「そ、そんなっ」
狭山ぁ?…なぜ、狭山が?
この件の関係性とは別にして、狭山がこのびちびちブラウスを桃李に着せたのか…?
な、何やってんだあの将軍女は!
ゆ、許されないわ!
「…まあ?俺としては?そのままの方がいいけどにゃ?こう、谷間が見えるのかどうなのか何なのか焦らされる感がたまらんな?」
そう言って、桃李の胸を上から覗き込む。
「慎吾、何やってんのよ!」
「セクハラ!セクハラ大魔王!」
「死んでしまえ!」
女子から一気にブーイングの嵐が。
しかし、松嶋はかえって喜んでるのか、大爆笑している。