王子様とブーランジェール
「ぎゃははは!世の男はみーんな、セクハラ大魔王ですぞ!な?な?みんな!男子のみんなもどうせなら、桃李のブラジャー、透けてる方がええだろ?」
松嶋は、そう教室内の男子に問いかけるが。
男子全員、ビミョーな空気を醸し出しながら、無言でうつむいている。
思春期の男子がこんな質問に正直に答えられるわけがないだろが。
もし、そんなことがあろうものなら、オラコンのイザベラの件以上の驚愕の瞬間が訪れる。
「り、り、りみちゃん、どうしよどうしよどうしよ…騙された騙された狭山さんに騙された…」
挙動不審のままの桃李は、両手で自分の胸を隠したまま、隣にいる黒沢さんに助けを認めている。
挙動不審、最高潮だ。落ち着きなく、動きもキョロキョロとして怪しい。
「騙されたことよりその胸の心配しなさいよ…」と、黒沢さんに呆れられていた。
「ベストあればいいんだけどねー。でも今日は暑いからみんなブラウスがポロシャツだし」
菊地さんの何気ない一言に、松嶋はふざけて反論する。
「真奈ちん!そんなベストだのポロシャツだの生ぬるいことを言ってはいかん!もうこうなりゃ桃李、いっそそのびっちびちなブラウス、脱いでしまうがいい!」
「はぁ?慎吾、セクハラもいい加減にしなさいよ!」
「美咲、あまり怒るでない!こうなりゃもう男子のドリームを抱えてブラジャー姿で授業を受けるしかなかろうが!」
「話、変な方向に行ってるでしょ!」
松嶋と女子の間で言い争いが始まった。
と、いうよりは、女子の反論を松嶋がふざけて面白がって相手をしている。
随分と騒がしくなった。
…うるっせえな。
狭山、俺の大事な桃李に、こんな恥ずかしすぎるイタズラをしやがって…。
松嶋、俺の大事な桃李の胸を覗き込みやがって…!ブラジャー姿で授業だぁ?セクハラ最高潮じゃねえか!
教室内の野郎どもも、みんな、透けたブラジャー、見やがって!!
桃李も桃李で、簡単に騙されやがって…!
鏡で全身チェックせんか!
俺は、イライラボルテージ、最高潮。
「…どけ!」
怒りを全身に纏って、その群衆の中を乱暴に掻き分けていく。
怒りの矛先がたくさんありすぎて、もう今までにないぐらいのイライラっぷりだ。
「…な、夏輝!…ひいぃぃっ!!」
俺が目の前に現れた瞬間。
桃李は汚い悲鳴をあげた。
形相と雰囲気から、俺がすでにブチギレてるのが、わかったらしい。
…なぜ、俺の前だと悲鳴が汚くなるんだ!