王子様とブーランジェール
もう苦悩と煩悩は上等
「おはようございまーす。出欠とりまーす」
チャイムが鳴った直後、仙道先生がいつものように、ゆるゆるで教室に入ってくる。
教卓に出席簿を置いて開く。
「………」
顔を上げた途端、仙道先生は動かなくなった。
その視線の先は、やはり…先ほど、ブラジャーが透けただの何だので騒いでいた渦中の人物だ。
その人物と目が合うと、凝視しながらゆっくりと首を傾げている。
「っていうか…誰?」
「せ、先生おはようございます…神田です…」
先生は再び、固まった。
しかし、ほんの瞬間でリバースする。
「…あ?あぁ、神田ね…しばらく遅刻してないな?うん、良かった、よかった…」
先生、しっくりきてない。
その変身ぶりには言及しないのか。
当たり障りない言葉しか出てきていない。
混乱が覚めない様子である。
担任の先生すら、誰だかわからなくなるぐらいの変身とは…。
桃李が、眼鏡を外して学校に来た。
昨日、部活の最中に、糸田先生の命令で優里マネと一緒に眼科へ行き、コンタクトを作ってきたという。
そこまでしか話は聞いてないが。
眼鏡を外しただけなのに、なぜか髪がストレートの毛先だけウェーブのロングヘアとなり。
ゆるゆるに着ていた制服類は、スカートの丈が膝上にまで短くなり、胸の辺りがびっちびちなブラウスを着て来やがった。
ブラウスは…狭山の差し金?
と、詳細はよくわからないが、とりあえず大変身をしてきた。
…松嶋じゃないが、ホントに呪いが解けたのか?と、思わせるぐらいの変身ぶりで、別人もいいところだ。
いったい、何があった?
詳細がわからず、時が過ぎ、授業もサクサクと始まっているが。
これは、大事件だ。
俺にとっては、あってはならない、最も防がなくてはならなかった事件。
なぜ、事件は起きた…!
このやり場のない思いをどこにぶつけたらいいかわからず、とりあえず、前の席にいる理人の右肩をおもいっきりギュッと掴んでみる。
理人は「いでっ!」と、声をあげて、振り向いた。
「…何のつもり?」
「ば、バカ!振り向くんじゃねえ!」
とっさに理人の陰、背中を盾にして身を隠す。
バカ野郎。
理人、おまえが少しでも動いたら、見えるじゃねえか!
俺の視界に入るじゃねえか…!
桃李の変身した姿が…!