王子様とブーランジェール
桃李の腕を掴み上げたまま、クレイジーギャルに向かって自分の居場所を知らせるように手を振っている。
「おぉっ!捕まえたか!でかしたぞ菜月!」
茶髪のギャルは小さくガッツポーズをしていた。
…あのギャル、俺と同じ、ナツキって名前なのか。
クレイジーギャルは桃李とナツキのいる場所へ赴く。
ギャルの威圧感が半端なかったのか、桃李はまた悲鳴をあげた。
「ひいぃぃっ!ご、ご、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃっ!何もしてないけどごめんなさいごめんなさいぃっ!し、知らないヤンキーだけど、ごめんなさいごめんなさいぃっ!」
首を左右にブンブンと振りながらなぜか謝っている。
また挙動不審になっている。
何もしてないけど…って、そうなのか。
知らないヤンキーって、そこははっきりと言うな!失礼だろ!
「あぁ?何で謝っているんだ?この天パ眼鏡」
「エリが恐いからでしょ」
そして、エリは桃李に顔をぐっと近付ける。
桃李は怯えながら、「ひいぃぃっ!」と、声をあげ、また目をうるうるさせて泣きそうになっていた。
「よう、パン屋の娘。少し顔を貸せ。いいか?」
「え、え、え、えぇっ!」
「なぁーに。すぐ終わる。一緒に来い」
「え、いや、その、あの、いや、いや…」
「さあ、来い!」
エリというギャルは、桃李の左腕を抱える。
桃李は両脇固められた状態となり、引きずられていった。
「ああぁぁっー!や、や、やめてぇー!し、し、し、死にたくないぃぃーっ!ぎゃあぁぁっ!」
桃李が途端に二人の間で暴れだす。
汚い悲鳴をあげながら、左右にブンブンと体を揺らしていた。
さすがの桃李も、命の危険を感じたか。
「桃李!…ちょっと待て!」
すると、そこへ。
俺の横を通り過ぎて、彼女たちを追いかけ呼び止める。
理人ぉ?
「…あぁ?」
ちょっと待てと言われたギャル二人は、桃李を抱えたまま、立ち止まる。
エリの方が不機嫌な声をもらした。
突然立ちはだかった理人を、ギロッと睨み付ける。
この目、ホントにヤバいぞ。
本場モノ並みだ。
「り、り、理人ぉー!助けてぇぇーっ!」
桃李の助けを呼ぶ声が廊下から聞こえた。
何を考えているか普段はわからない自由な男だが、桃李には優しくする理人。
桃李が拉致されるのを黙って見ていられなかったようだ。
おいおい。勢いで首を突っ込むな。
「ちょっと、桃李が何かしたんですか?嫌がってるじゃないですか!」
ヤンキーなエリを目の前にして、物怖じせずにもの申す理人。
しかし、理人の発言に、エリの表情はますます機嫌が悪いものとなっていた。
「あぁ?嫌がってる?…どこがだ」
「どこがだって…見てわかりませんか?!」
「あぁ?わかんねえよ!この…無駄にイケメンが!」