王子様とブーランジェール
俺は、常に平常心、冷静さを忘れずに今までやってきたつもりだ。
男たる者は、強くあるべきで弱さなんて見せてはいけない。
どんな時も、隙を見せず冷静であるべき、だなんて信条を掲げて。
…いや、酔っ払った時にはこれがどうでもよくなってしまい、いつも失態を犯しては後悔してるんだけど…ここはまだ未熟なところで…。
特に、桃李の前では、弱いところなんて、見せられない。
ドジな桃李にとっては、俺は頼れる存在でなければならない。
赤面してあたふたするところなんて、絶対に見せられるか!
桃李が眼鏡を外してはならない、俺の超身勝手な理由。
松嶋の言う、『独占欲』ってやつもある。
俺が言うのも説得力がないが、あの美少女っぷりは、正直レベルが違う。
高瀬のようなヤツが、どんどん出てくるに違いない。
桃李のことだから、そこら辺の馬の骨のような男に騙されるかもしれない。
野郎の性欲の餌食になるなんて、そんなことは絶対に許されないし、断固として阻止だ。
しかし、超身勝手な本当の理由とは。
実は、その『自制心』を保つため…だったりする。
「痛い痛い痛い…いつまでやんの?やめてやめてやめて…」
依然として理人の両肩を掴んで握り続けている。
理人のその広い背中に身を隠し続けながら。
理人もうわ言のように、痛みを訴え続けている。
また、前方確認してみた。
理人の右肩から、またひょっこりと顔を出してみる。
(…何っ!)
顔を出したと同時のタイミングで。
桃李が松嶋の方を向いていた。
何やら話しかけている。
…横顔だ!
桃李の、横顔を見てしまった…!
ダメだダメだダメだ!
直ぐ様、再び身を隠した。
ダメだ!
ダメだ!ダメだ!
横顔もかわいすぎる!
視界に入った途端、一気に顔が熱くなった。
先日のパン撮影の時も。
『優しいですよ』と、言われて頭が真っ白になり、頭が焼け焦げた。
今もこんな状態なのに。
今後、どうなってしまうんだ…?
頭や心臓が爆発するんじゃなかろうか。
「…ったく。桃李が可愛く変身してきて、何浮かれてんだか。この浮かれポンチ」
理人が聞こえるかどうかぐらいの小さな声で、ボソッと呟く。
バカヤロー!
浮かれてるんじゃないわ!
俺というキャラクターの危機だ!