王子様とブーランジェール
昼休みになると、朝の約束通り、木元さんが俺の教室に来てくれた。
売店で買ったアイス持参で。
「って、先輩を教室に呼びつける後輩はおまえぐらいしかいねぇっつーの」
「すみません…」
「小生意気すぎて、かわいいわー」
でも、おみやげ持参で結局来てくれるなんて。
何て優しい先輩だ。
クズ臭するとか言って、ごめんなさい。
廊下で、二人並んで窓の外の景色を見ながらアイスを食べる。
昨日の出来事の話を聞きながら。
「今年は猛暑だな。この時期にもうこんなに暑いなんてよー」
「でも、アイスめっちゃ美味い。ありがとうございます」
さっきまでどこかしら熱くて暑くて大変だった。
アイスに冷やされ癒され、落ちついた…。
…木元さんの話の内容は、全然落ち着く話じゃなかったんだけど。
昨日、練習中。
糸田先生に急におつかいを頼まれた優里マネ。
詳細を話すと言われ、連れていかれたのは、体育教官室。
体育の先生の部屋。
糸田先生に連れられて中に入ると、ソファーに桃李が座っていた。
…ものすごくうつむきがちで。
『あれ?神田さん、どうしたんですか?』
『………』
桃李は、反応なし。
すると、糸田先生が『今、母親が来て散々怒鳴られてしょんぼりしてんだ』と、補足した。
…は?!母親?来たの?何で?
ふと、テーブルの上を見ると。
なぜか?保険証と、現金六万円が置いてあった。
…ろ、六万円?!何で?!
『坂下』
『は、はい…』
糸田先生は、テーブル上の大金を指差す。
『それを持って、神田を眼科に連れてってくれ』
『が、眼科?』
はぁ…と、ため息をつく先生。
『そいつのコンタクト作ってきてくれ。眼鏡はずりずり下がってばかりで仕事の邪魔になるから。親にも許可取ったから。確かおまえ、コンタクトしてただろ?』
はぁ…だから、ここに保険証と大金が…。
六万円だなんて、こんなにかからないんだけど…。
そうして、制服に着替え、眼科とコンタクト屋のある札幌駅へと向かった優里マネと桃李。
自分の通っている眼科に連れていき、検査、診察を待つこと一時間。
途中で何回か汚い悲鳴が聞こえてきたという…。
『坂下マネージャー…お待たせしてす、す、すみません…』
『全然いいのよ…えっ?!』
コンタクトをつけて出てきた桃李の顔を見て、優里マネは一瞬固まった。
『…誰?』
『か、神田です…』