王子様とブーランジェール
『あ、あ、あの…こ、こ、ここ入るんですか…』
『そうだよ。もう予約してるから』
すると、桃李がビクッと体を震わせた。
『わ、わ、私…美容室、行ったこと、ないんです…しかも、こんなおしゃれなとこ…』
『…はぁ?!』
呆れた…JKなのに、美容室に入ったことがない?!
いつも、お母さんに切ってもらってたって?!
これ、母親の責任もあるでしょ?!
これも…大変だ!
『こ、こ、こんなおしゃれな未知の世界、い、い、行けませんっ!だ、だ、だってハサミ…十万円以上するんでしょ…』
ハサミの値段、あなたに関係ある?
何でそこが入店できない理由なの?
『…いいから、入る!』
『ああぁぁっ!』
躊躇する桃李を美容室に無理矢理押し込む。
よくわからない理由なんて、かまっていられない…。
鏡の前に座らされた桃李。
真っ青になっていて、やはり挙動不審にキョロキョロしていたという。
『キョロキョロしないで前を向く!あと、悲鳴は絶対あげないで。死んでもあげないで。絶対堪えて!』
優里マネ、桃李の扱い方がわかってきたようだ…。
そして、待つこと約二時間。
その間に、木元さんと蜂谷さんがやってきた。
『大変なことって何だよ!…で、何で美容室?』
木元さんは、蜂谷さんとバスで札幌駅へ向かっている最中に、美容室に来てと連絡を受け、そのまま向かったという。
優里マネはソファーに座ってジュースを飲んでいた。
そして、ドヤ顔で言う。
『あんたたち、吠え面かくわよ?』
吠え面…?
死語…?
すると、施術とお会計を終えて、戻ってきたようだ。
『さ、坂下マネージャー、終わりました…』
『あら、いいじゃない!』
そこには、ツヤツヤのストレートロングヘアの美少女が立っている…。
『…ん?誰?』
『…わぁお!メガネじゃないの!かわいい!』
蜂谷さんは速攻気付いたようだ。
…え?何でわかったの?
っていうか、この美少女、あのダメダメメガネ?!
嘘っ…!
と、そこで、木元さんたちもこの話の経緯を聞いたとのことだった。
その横で桃李は、そこら辺の鏡で自分を見て、汚い悲鳴をあげている。
…ど、どうした?
『こ、こ、これ…誰ですか?』
自分の姿を指差して、自分を誰ですか?って言ってるわ…。
ガチバカ臭がする…。