王子様とブーランジェール
無駄にイケメン…。
何だそれは…。
罵声のつもりなんだろうか。
しかし、理人はそのツッコミをスルーして冷静に対応する。
「ちょっと事情を聞かせて下さい。桃李を離してもらえませんか?」
「…あぁ?」
エリは鼻で笑った。
「この一年坊主…この狭山エリ様相手に命令だと?いい度胸してるな?このバカめ!」
「命令じゃありません。下手に出てお願いしてるじゃないですか!」
すると、エリが桃李から手を離した。
そして、「菜月、そいつ連れて先に行ってろ」と、再び教室の中へ入ってくる。
「了解!」と、菜月は桃李を連れてさっさと姿を消してしまった。
連れていかれた…。
桃李の「助けてぇぇーっ!」という悲鳴が小さく聞こえた。
しかし、それに憤慨したのは、理人。
「ちょっと!桃李を離せって言ってるじゃないですか!…桃李!」
理人は桃李を追いかけようと、エリの横を通り過ぎようとした、その時だった。
「おっと!行かせねえぞ?この無駄にイケメン」
「えっ…!」
急な展開に一気に驚きの表情を見せる。
理人の顎には、金属バットが突きつけられていた。
き、金属バット?
いつの間に持っていた!
突然の金属バットという獲物の登場に、ギャラリーの女子達からは、「きゃぁーっ!!」と、またしても悲鳴があがった。
このお真面目進学校に。
まさかこんなモノを持ったヤツが現れるとは。
この高校の治安、どうなってんだ。
しかも、ちょっと嫌な予感がする。
あの凶器を持ち慣れてる感、あるぞ…。
このヤンキー、ちょっとヤバいヤツかも…。
金色の金属バットを理人の顎に突きつけたまま、エリはジリジリと理人に詰め寄る。
理人も少しずつ後ろに下がらせられていた。
「くっ…」
「さっきの威勢はどうしたコラァ?女子だからってナメてかかんじゃねえよ?無駄にイケメン」
そう言って、理人の顎をツンツンとバットでつつく。
そして、グリップを握っている手首の角度を変えていた。
…まずい、来る!
「…理人、退がれぇっ!!」
金属バットは綺麗に弧を描き、空を切って勢いよく振り下ろされる。
ブンッとはっきりした音がした。
俺の声に気付いた理人は、思いっきり左後ろに飛んでギリギリバットを回避する。
ちっ…ったくよぉ!
「ちっ、かわしやがって!この無駄にイケメン!」
金属バットを理人に向かってブンブンと振り回す。
避わされたバットは、次々と辺りの机に打ち当たり、ものすごい音をたてていた。
片手で振ってるのに、すげえ音してるじゃねえか。
女子のくせに、何てパワーだ!
そんな猛獣のもとへ、机を乱暴に避けながら走って向かう。
「…死ね!」
エリは近くにあった机に飛び乗り、そこから踏み込んでジャンプ。
同時に、思いっきり真上にバットを振り上げていた。
何なんだその身のこなし!飛んでる!
「…夏輝!」
二人の間に入り、理人を背に庇って。
勢いよく真上から振り下ろしてきた金属バットを、両方の手で掴み抱えた。
バシッと大きな音が響く。
「…なぬっ!…このっ…おまえは何だ!」