王子様とブーランジェール
金属バットを真剣白羽取り。
いっ…途端に両手に重い痺れが襲ってきた。
な、何だよこの女。
すごいパワーじゃねえか。
そして、痺れも構わず、バットをしっかり掴んでグッと引き寄せる。
すると、エリも両手でバットを引っ張っていた。
お互い、バットを引っ張り合っている状況だ。
「…くっ!バット、動かない…この狭山エリ様が振りほどけないとは!おまえは一体何者だ!この無駄にイケメン2号コラァ!」
無駄にイケメン2号…俺のことか?
このバットを離したら、エリは再度このバットで俺達を攻撃してくるに違いない。
それは、いろいろと面倒だし、サクッと早くこの場を静めたい。
しかし…力強い。
俺の手が痺れていて、うまく力が入らないとはいえ。
俺の力で、なかなかこっちに引っ張りきれない。
相当な力の持ち主だぞ。
嫌な予感は的中した。
やはり、このヤンキー、タダ者じゃない。
身のこなしといい、相当な場数踏んでいる。
「ふっざけんな!この無駄にイケメン2号!離しやがれ…くっ!」
しばらくバットを引っ張り合っているが。
状況はなかなか動かず。
ヤバい…手の痺れが取れない。
力を緩めるとやられる。
だけど、痺れのせいで勝手に緩まるのも、時間の問題だ。
こうなったら…。
女子相手には、気が引けるが。
女子だけど、ヤツはタダ者じゃない。
覚悟を決めたら、集中せよ。
お互いの力が入ったバットを、俺が先にパッと離す。
「…わっ!」
急に離した反動で、エリは少し体勢が乱れた。
しかし、下半身が強いのか、思ったほどよろめいていない。
…やはり、この女、相当ケンカ慣れしてるな。
しかし、少しばかりの隙を…突いてやる!
こっちも少し退がって、素早く体勢を直す。
エリのグリップを握る手を狙う。
踏み込んで、利き脚の左足を振り上げる。
振り上げた足の踵を、グリップを握る両手に命中させた。
「いぃっ!」
衝撃でエリの手からバットが離れる。
バットは宙を飛び、床にコロコロと転がっていった。
そして、獲物を離したエリを睨み付ける。
エリは、俺に蹴られた両手を抑え、倍返しで俺を睨み返していた。
「おのれ…おのれぇっ!」
目玉ひんむいている。
まだ闘争心は失ってないようだ。
…って、まだやる気か?
「まだやんのか?女子相手に素手でやりたくないんだけど!」
すると、エリはちっと舌打ちをした。