王子様とブーランジェール



フラッと立ち上がり、咲哉の目の前に立ちはだかる。




「な、夏輝、どうした?」

「何か恐い顔してんな…」



とうとう脳内が怒りに支配されてしまった。

疑問でいっぱいの表情で俺を見る咲哉を、俺は上から見下ろす。

そして、暴挙ともいえる行動に出るのだった。



「…この痴漢野郎…」

「…は?」

二人は顔を見合わせている。



だが、もう止められない。



「…この!…痴漢野郎が!!」

「えぇっ?!…あっ!…ちょっと!わっ!」



咲哉の胸ぐらを両手で掴む。

力任せに掴み上げて、そのまま引っ張り上げて、壁にバン!と背中を叩き付けた。

足が宙に浮いている。

「げほっ!…な、何?何!何するんだよ!」

俺の手を振りほどこうとする咲哉だが、生半可な力じゃ振りほどけないようだ。

逆に抵抗されて意味もなくイラッとしてしまい、壁に押し付けたまま、両手に力を加えて胸元を締め上げる。

「…え?え?…げほっ!」

「俺の…俺の大事な…俺の大事な桃李に痴漢しやがってぇっ!この痴漢野郎がコラァ!」

「ち、痴漢…?…いぃっ!」

掴み上げていた体を宙に浮かせて、もう一度背中を壁にバン!と叩き付けてやった。

その体は小刻みに揺れた。

怒りに任せて勢いそのまま咲哉を睨み付ける。

咲哉の表情が困惑から恐怖へと変わっていった。



なぜ…なぜ!

なぜ、みんな桃李に構うんだ!

今まで、誰も桃李に注目することはなかったのに!

可愛くなったその姿を晒した途端に!

みんな、桃李、桃李って、ちやほやしやがって!

…エロい目で見やがってぇっ!!



「…俺の大事な桃李を、エロい目で見やがってこの野郎があぁぁっ!!許されないわコラァ!!」



もう一度、咲哉の背中を壁に叩き付けた。

渾身の力を込めて、胸に響くぐらいに叫び散らす。




「…あ、ああっ!や、やめっ!…やめろ夏輝ぃっ!」



陣太が俺の腕に絡まってきた。

しばらく呆然として見ていたが、この鬼気迫る空気に気付いたのだろう。

しかし、陣太が止めに入ったところで、そんなものはびくともしないし、シカトだ。シカト。

一度爆発させてしまった怒りは、簡単には止められない。



「俺は…俺は!この何年間ずっと、ずーっと!アイツを大事にしてきたんだ!…わかるか?わかってんのかぁっ?あぁ?…わかってんのかってこのボケがコラァ!!」

「あ、あ…ご、ごめんなさいぃぃっ!手を握ってごめんなさい!おっぱい肘に当たってごめんなさい!エロいこと考えてごめんなさいぃぃーっ!!」

「やめっ!やめろ夏輝!咲哉死んじまうぞってぇっ!」

「うるせえ!…全員、皆殺しだあぁぁっ!!」



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