王子様とブーランジェール
桃李が、あの可愛い姿を晒す以前からも、不快感はあった。
やたらと桃李に馴れ馴れしく付きまとっている松嶋とか。
パンで胃袋を掴まれたのだか知らんが、やたらと桃李にアプローチをしてくる高瀬とか。
どこで知り合ったんだかわからんが、二年の美少女、藤ノ宮律子だとか。
今まで縁もゆかりもない、桃李と全く接点のないような存在、立場、キャラクターの連中が!
なぜ桃李を構うんだ?
可愛い姿を晒した後も、そうだ。
眼鏡を外させた、糸田先生とか。
そんな桃李をプロデュースして可愛くしてしまった優里マネとか。
可愛くなった途端に桃李をお持ち帰りしてしまった、蜂谷さんとか。
可愛い可愛いと周りに集まり、ちやほやするクラスの女子たちとか。
下心が見え隠れしている、クラスの男子とか!
他にも、狭山だとか、誰だとか、あれだとか、いろいろ。
なぜ、なぜみんな…!
「…何でみんな、桃李を構うんだあぁぁっ!!俺の癒しを、オアシスを奪う気かあぁぁっ!!」
俺が、小さな部屋の隅で、大事に育てていた花を。
つぼみのままだと、誰も見向きもしなかった花。
それでも、俺は気に掛けて、大事に育てていた花を。
花が開いた途端に。
みんなして、土足でずかずかと部屋に入ってきて。
みんなして、花を弄ぶ。
…俺が、俺が端正込めて大事にしていたものを!
みんな、なぜ表に出そうとするんだ!
あいつは、モブ!
モブキャラなんだ!
モブのままでよかったんだ!
なのに…!
「…だいたい!俺は桃李が天パ眼鏡のままでも良かったんだ!なのに…なのに!何で余計なことをしやがるんだぁっ!!あぁぁっ?!」
「あ…あ…それ…俺に言われても…」
「…あんなに…あんなに可愛くなっていたら!直視できんだろうがぁぁっ!!俺を…俺を陥れる気かあぁぁっ!!」
今一度、咲哉の体を壁にバンバンと叩き付け続ける。
咲哉から「ぐえっ」という声が聞こえた。
すると、陣太はまたしても俺の腕を掴んで制止しようとする。
「わかった!わかった!わかったから!神田は夏輝の大事な大事な宝物だってことは、すごいわかったから!だから、咲哉を離してやってくれって!…っていうか、夏輝だって天パ眼鏡の神田より、変身した神田の方が良いんじゃん!なぁ!」
な、何を…!
「…本当にわかってんのかコラァ!!煩悩に踊らされているのは…おまえらだろうがぁぁっ!!寄って集ってどいつもこいつも!!」