王子様とブーランジェール
成長して変化することの意味
「リッフィー…やり過ぎなんじゃね?」
せ、背中が痛い…。
今度は痛みに支配されてしまった。
ち、ちょっと、起き上がれない…。
「いいんだ。このぐらいやらないと、夏輝を止めることは出来ない」
「でも、おもいっきり振り回していたよな?」
「大丈夫。夏輝は鍛えてるから、このぐらいじゃケガしないよ。スパーでこのぐらいの蹴りは受けてるはず。そんなことより、一人の人間の尊い命が守れてよかった」
いや、そうですけどね…。
しかし、本気で椅子を振り回すとか、あまりにもひどくないか?
いや、仕方ないのか…。
「うわあぁぁー!理人、ありがとうございますーっ!俺の命の恩人…」
咲哉の泣きついた声が聞こえる。
「咲哉、本当に危ないところだった。夏輝は本当に殺人兵器だからね。まったく、誰が夏輝に格闘技を勧めたんだか。殺人兵器を造り上げたことの責任を取ってもらいたい」
「…それは…酒店の兄ちゃん…」
「喋れるようになったのか?なら、早く座れよ。説教だ」
「………」
何を抜かすか。
何が、一人の尊い命だ。殺人兵器だ。
人一人、そう簡単に殺せるものか。
だけど、何も言えない。
今回ばかりは、俺が悪い…。
あぁぁ…。
ようやく起き上がるが、背中にビキッと痛みが走った。
うおおぉっ!痛ってぇ!
おもいっきりやりやがって理人ぉぉっ!
部活に影響したら、どうしてくれるんだ!
「ほら、早く座りなよ」
理人がシラッとした目で俺を見ている。
くそっ。
あんな暴挙の後じゃ、本当に何も言えない。
何であんなことしちまったかな…。
理人の言うとおり、座る。
この場合の『座れ』は、普通に椅子に座るのではなく。
床に、正座。
理人に、怒られる。
悔しい…!
「夏輝が床に正座…」
「王子様な顔して、床に正座…!」
陣太と咲哉が、側に寄ってくる。
俺の正座姿が物珍しいようだ。
普段の姿からじゃ、想像できないってことか…。
俺だって、反省しますよ…。
殺人兵器と友達に言われても、人間だもの…。
俺が床に倒れている間に、授業開始のチャイムは鳴ってしまった。
この状態で、授業に行っても、どうもならない。
松嶋が教室のドアをそっと閉める。
5人でおサボりという形になってしまった。